梶井基次郎の妄想〜「愛撫」
私の好きな小説家 その1
梶井基次郎(かじい・もとじろう)は、感性豊かな小説家です。結核の療養のためにいた伊豆で、「美しい」と飾っていたリンゴを三好達治が食べたとき、三好をポカッと殴ったという逸話があります。
感受性ゆたかなことを示す作品として、「檸檬」:「レモン」が特に有名ですね。果物屋で買った一個のレモンを、丸善(京都にあった本屋)の本を無造作に重ね、その上に置いてきて、「爆弾」を仕掛けてきたと妄想したり、また「桜の樹の下には」と言う作品で、桜の樹があんなに美しく咲いているのは、樹の下に死体が埋められているからだ、と妄想したり・・・
そのような系列にある作品として、「愛撫」があります。梶井は、ネコの耳に興味を持ち、「一度あの耳を切符切りでパチンとやったらどうなるか」という妄想を暖め、実際にはネコの耳を噛んでみるのですが、噛む力を増やせば増やすほど、ネコの悲鳴が大きくなり、とても切符切りは出来そうもないと悟ります。
それでも梶井の妄想は膨れます。今度は、ネコの爪を全部切ってしまうとどうなるか、です。
猫はどうなるだろう?恐らく彼は死んでしまうのではなかろうか?
いつものように、彼は木登りをしようとする。――出来ない。人の裾を目がけて跳びかかる。――異う。爪を研ごうとする。――なんにもない。恐らく彼はこんなことを何回もやってみるにちがいない。その度にだんだん今の自分が昔の自分と異うことに気がついてゆく。彼はだんだん自信を失ってゆく。もはや自分がある「高さ」にいるということにさえブルブル慄えずにはいられない。「落下」から常に自分を守ってくれていた爪がもはやないからである。彼はよたよたと歩く別の動物になってしまう。遂にそれさえしなくなる。絶望!そして絶え間のない恐怖の夢を見ながら、物を食べる元気さえ失せて、遂には―
―死んでしまう。
ここで描かれる「妄想」については、なるほどなあ、と思います。生き物の命が微妙なバランスの上で辛うじて保たれていることがよく解ります。
さて、ここで、別の人がこの小説について触れたエッセイ・「鞄に本だけつめこんで」(群ようこ:新潮社)をみてみます。群さんも愛猫によく悪さをしたそうです。特に「インディアンののろし」といって、猫(トラちゃん、♀)に虫眼鏡をかざして太陽光を集め、トラちゃんの頭を焦がす、という悪さをやったことがあるそうです。頭が禿げちゃう!これは可哀相!!
イジメの密度は、梶井氏より酷そうです。
そして締めくくりとして
猫は死んではいけない生き物なのである。うれしい時、淋しい時、悲しい時、膝の上にのせて話しかけるだけで安心してしまう。私がトラちゃんをハゲにしてしまったり、猫の前足をちょんぎって化粧道具にしてしまう夢をみたり、耳にかみついてみたりするのは本当は人間が猫に甘えているからなのだ。「愛撫」を読むたびに、トラちゃんへの「ありがとう」と「ごめんなさい」が交錯し、いつも哀しくなってしまうのである。
ここでいう「化粧道具」は、梶井が夢で見た、親しい婦人が愛猫の前足を切り取り、その用途にしたということを指します。梶井基次郎の場合も、群ようこの場合も、猫にとる態度は、「愛撫」ではなく「虐待」ではないでしょうか?両者は近接した行為なのかも?
梶井 基次郎(かじい もとじろう、1901年(明治34年)2月17日 - 1932年(昭和7年)3月24日)は、近代日本文学の小説家。志賀直哉の影響を受け、簡潔な描写と詩情豊かな小品を残す。文壇に認められてまもなく肺結核で没した。死後次第に評価が高まり、今日では近代日本文学の古典のような位置を占めている。
今日のひと言:梶井基次郎の作品は、小説というより、散文詩と言ったほうが相応しいと思えます。梶井基次郎は夭折した作家ですが、彼の感性は鋭く、存在というものの実相に鋭く迫るものを持っています。
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今日の料理
@クサギとシイタケの炒め煮
クサギの料理については以前も触れましたが、
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20130524#1369369540
今回は前日炊き込みご飯を作ったので、残ったシイタケと庭のクサギ(繁茂しすぎているので、クサギの間引きを結構やった後)から採れた若葉を料理にしてみました。水から適当に細長く切ったシイタケを茹で、オリーブオイルを少々加え、前処理をしたクサギ、クコの実を足し、砂糖・醤油で味付け、最後に油揚げを半枚、適当に細長く切ったものを加え、少々炒めて完成。クサギはほろ苦かったです。
(2013.07.12)
@バイアムのお浸し
これ(バイアム)も以前に触れましたが、
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20130703#1372822508
さわやかな薄緑が食欲をそそります。間引き菜と成長した株の葉を合わせて作りました。今回の種は「タキイ種苗」から入手しました。ヒユナというのが別名です。お浸しの他、胡麻和えも美味しいです。
(2013.07.13)
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