私は、将来、「家政学」に関する本を書く予定です。だから、家政学関係の本にはアンテナを張っていますが、なかなか心にヒットする本にはめぐり逢えません。
ここに、現在パリ郊外在住で、フリーランス・ジャーナリストの浅野素女(あさの・もとめ)さんの「フランス家族事情:岩波新書」という本は、最後まで読めましたので、いい本だと思い、書評を書きます。
そもそも、フランスはその出生率において、数字が他の先進国より優等生であることは、つとに聞いていますが、実際のフランスは、実は家族・親子にまつわる苦悩が実際ひどいです。
フランスの場合、離婚率がかなり高いのです。フランス全土で3分の1、パリに関しては2分の1の夫婦が離婚体験者であり、それでも非婚で子供がいる率は30%もあります。
離婚後は、それぞれシングルとして暮らすことが多いのですが、ここにいうシングルとは、日本における「パラサイト・シングル」とは少々違うようで、離婚した男女とも、自ら生活の糧を稼ぐようです。ここに、子供の問題が絡みます。
現代フランスの一大重要事として、ド・ゴール大統領を5月革命で退場させた後、いわゆる「父権(ふけん)」というもの、父親的なもの・父性がないがしろにされてしまったというのがあります。
たとえば、以前は夫婦だった2名の男女の間に生まれた子供は、おおむね母親が引き取り、裁判所で、毎週末とかヴァカンス時に父が子供と付き合うのを認めているのに、母が拒む・・・という例です。母権がよりつよくなっているのです。
では、男性、父に価値はないか、といえば、父親は、べったりくっつきあっている母子の間にはいり、「社会性を教える」という立派な存在価値があるのです。この本で言えば、いわゆる「めんどりパパ:家事一切受け持つ父」のように、男性は子供に気をつかう必要はないということです。
1993年、フランスの民法で「別離のあとも、親権は母親と父親が共同で行使する」と規定されました。これで、父と母は子どもの養育において対等になったのですね。
そしてこの本最後の話題は「複合家族」。この言葉は正確な訳語がないので、浅野さんの試訳ですが、夫婦が離婚して、その一方が新たな家庭を作った際、子供は、これらの親たちの家庭を巡り、おそらく、父、母から(継母、継父からも)適度な刺激を受け、育っていくことになるという枠組みで、フランスは動いています。
今日のひと言:作者の浅野素女さんは、実存する多くの破綻カップルにインタビューして、この本を書き上げています。一次資料を駆使しているのだから、それなりに立派な本になっていますね。記述から見て、浅野さんは私と同世代ですね。現在アラフィフ。「学生時代1年間のフランス留学後、上智大学外国語学科卒業。在学時から、フランス国営放送のドキュメンタリー制作にスタッフとして参加されています。」(←紹介文より)
フランス家族事情―男と女と子どもの風景― 1995年8月21日 第1刷発行
(岩波新書)
- 作者: 浅野素女
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1995/08/21
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パリの女は産んでいる―“恋愛大国フランス”に子供が増えた理由
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