グスコーブドリの伝記・・・宮沢賢治のおかしな記述
私は宮沢賢治なら、小学生のころ「山梨(やまなし):小説」、中学生のころ「夜鷹の星(よたかのほし):小説」、高校生のころ「曠原淑女(こうげんしゅくじょ):詩」を読んだくらいで、小中高と、同じ作家の作品を読まされたのですが、とくには惹かれませんでした。私が高校生の家庭教師をしていたときには、生徒の教材が「永訣の朝(えいけつのあさ:詩」でした。
こんなに愛される作家はなかなか他にいませんねえ。太宰治くらいでしょうか?いや、太宰の作品は、小学生には読ませられないでしょう。宮沢賢治には年齢制限がありません。
さて、大人になってから「グスコーブドリの伝記」のあらましを知って、ちょっとあきれたところがあります。寒害に襲われた故郷を救うため、自分を犠牲にして火山を噴火させるというのです。火山を噴火なんかさせたら、大気が火山の灰に被われ、もっと酷い寒害が来るのですが・・・
そこで、図書館から「グスコーブドリの伝記」を借りてきて、読んでみました。この作品の結末は先にふれたとおりですが、原作では、グスコーブドリが少年のころから話は始まり、干害などの自然災害の解決法を真剣に探すというグスコーブドリの成長過程が描かれるのです。そして、グスコーブドリが人柱になって火山噴火を誘起し、そのあと、イーハトーブには豊作が訪れるというお話になっています。
この話の中で、二酸化炭素が温室効果ガスであることを正確に記述している点はスゴイですが、その効果と粉塵による寒冷化効果を比べれば、浅間山の大噴火に見られるように、火山噴火は地球寒冷化に繋がる恐れの方が多いのです。「グスコーブドリの伝記」の齟齬です。
この齟齬は宮沢賢治が信仰していた日蓮宗(創価学会ではない)の自己犠牲の徳目を火山の噴火による大衆救済に無理やりつなげるという感じがして、気味が悪いというのが正直なところです。二酸化炭素の温室効果を知っていたのなら、火山灰の寒冷効果を知っていても可笑しくいないはずです。グスコーブドリ自身は、そう思っていないのかも知れませんが、一人だけ人柱になることを良しとする自己英雄視であると思われるのです。この態度、宗教的ではあっても、科学的ではありません。
今日のひと言:私が芥川龍之介に出会ったのは、宮沢賢治の「夜鷹の星」を読んだあと、芥川の才走った小説や、警句集「侏儒の言葉:しゅじゅのことば」を読み、「こちらのほうが良い」と芥川にのめりこんだものです。芥川には「シニカルな視点」があり、当時私の母親が躁鬱病に罹り、私につらく当たったあとでは、牧歌的な宮沢賢治よりもおなじく母親が発狂した身の上で、世を斜めにみる芥川の小説、エッセイなどを選んだというわけです。
私にとって宮沢賢治は過渡的な作家でした。もっとも芥川龍之介も過渡的な作家になりましたが・・・
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作家たちが読んだ 芥川龍之介 (宝島社文庫 C へ 1-3)
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