ここは、ロシアの首都ペテルブルグ(当時:現サンクトペテルブルグ)から離れたところにある市。ある筋から、ちかぢか「監察官」が視察に来る、という情報が入る。
この市の要人たち、市長、慈善病院長、郵便局長、判事、教育委員長たちは、気が気でない。いろいろな悪行がばれるのがこわいのだ。
そんな彼らの前に、旅館で料金を払えずに四苦八苦している男が現れる。フレスタコーフ。各界の「名士」である彼らは、フレスタコーフが「監察官」であると誤解し、それぞれが賄賂(わいろ)をフレスタコーフに差し出す。
はじめは状況がよくわからなかったフレスタコーフも、どうやら彼らが自分を「監察官」であると誤解しているのに気付き、「監察官」になりすまして賄賂をみんなから受け取る。その際の要人たちのうろたえぶりも笑える。そして、てんでに他の要人の悪口をいいあう。そして、たっぷり「賄賂を受け取った」フレスタコーフは足早にこの市を立ち去る。
フレスタコーフは旅立つ直前にペテルスブルグの友人あてに、この市の連中が馬鹿ばかりであるという内容の手紙をだすが、郵便局長が「違法に!」開封してみた。
それで、監察官だと皆が思っていた男はただのプータローであることが知れる。
みんな口惜しがっている折、本当の「監察官」が現れる・・・という筋書のドラマである。全5幕。読者から見て「喜劇」であるが、本人達からは「悲劇」であろう。
この本「検察官 五幕の喜劇」は、船木裕氏訳で、群像社より刊行されたもの。
話の興味としては、フレスタコーフの正体が何時ばれるか、本当の「監察官」はいつ来るか、であったが、もっとも好いタイミングでそうなったのが面白い。
広く知られた「検察官」という題名ではなく、本文中で「監察官」としたのは、裁判の告発役である「検察官」ではなく、実際の「地域の政治・経済状態」を把握するための官吏なので「監察官」としたとある。
帝政ロシア末期の混乱状態もおしてしるべき内容で、社会的なメッセージ性の強い作品となっている。
今日のひと言:私はこれまで、ロシア文学といえばガルシンの短編集くらいしか読んだことがないので、まずは中篇の本作を読んでみたわけだが、手ごたえがあった。今度は「罪と罰」とか「カラマーゾフの兄弟」を読んでみようか知らん。実際、リアリズム文学の領域では、ゴーゴリ(Гоголь:1809−1852)はドストエフスキー(Достевский:1821−1881)の先輩らしいから。ドストエフスキーは、おおいにゴーゴリの影響を受けている由。
ただ、ゴーゴリは晩年精神に異常を来たしたそうである。自作原稿を燃やしたりした。そのなかに長編「死せる魂(未完)」が入っていたかは、私には判らない。また、これは「世界史こぼればなし:角川文庫:三浦一郎」にあったお話だが、ゴーゴリは小説の構想が思い浮かばず、プーシキン(Пушкин)にアイディアを求めたことがあるという。この際、構想をプーシキンが与えると、すらすらすらっと、ゴーゴリは登場人物の細かい性格設定まで出たという話である。小説家としてはかなり変わった創作活動をしていたようだ。

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