虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

「リアル」〜もう一つの「スラムダンク」

 漫画家・井上雄彦(いのうえ・たけひこ)さんは、卓越した画力と優れたストーリーテラーの才能で、これまでも、バスケット漫画の「スラムダンク」とか宮本武蔵を描いた「バガボンド」などの作品を世に送り出してきましたが、今回取り上げるのは、身障者がプレイする「車椅子バスケット」に関する漫画です。


 その作品は「リアル」(REAL)です。現在13巻ほどコミックが刊行されていますが(2014年1月現在)、私は12巻まで読んでこの稿を書いています。この作品には、主要な登場人物が3名います。


 @戸川清春・19歳、元々スプリンターを目指していましたが、足に骨肉腫が発見され、それを諦め、足を切断され車椅子バスケットに青春の全てを賭けています。


 @野宮朋美・18歳、(素行不良と見られるため)高校を中退し、いろいろな仕事を体験するが直ぐに首。自分に正直過ぎて周囲と摩擦を起すのです。免許取り立ての頃、道を譲ってくれたドライバーにクラクションを鳴らす、など。感謝の積りだったらしいですが・・・プロ・バスケットチームの「東京ライトニングス」のテストを受け、最終選考までいくも惜しくも不採用。


 @高橋久信・18歳、盗んだ自転車で交通事故に遭い、心ならずもリハビリ生活。健常なら学業成績も、バスケットの腕前も優秀でした。


野宮は戸川のことを「ビンス:NBA選手」と呼び習わしています。野宮は戸川、高橋の共通の知り合いですが、戸川と高橋は面識がありません。ただ、この12巻のうち、高橋が戸川の車椅子バスケをやっている姿を目撃し、大変刺激を受けたというようなお話もでてきます。(9巻最後のページ)



 12巻まで読んだ限りでは、「今だ物語は始まっていないな」との印象を持ちます。高橋がリハビリを終え、車椅子バスケができるようになる日までは。その意味では、この作品は「構想雄大な漫画である」とも言えるでしょう。



 ここで、身障者が自虐的な言説を弄する場面が出てきます。


「俺たちのはよ・・・勝とうが負けようが――世間の連中にはどうだっていいんだ
その証拠に新聞を見てみろ 車イスバスケがスポーツ欄にのるか?「社会面」とかそんなんだろ 知らねえけど いいか戸川 勝ちなんて誰も期待してねーよ 「障害に負けず明るく前向きに楽しんでいます」 奴らが知りたいのはそれだけだ そうだろ安積 真剣もいいがほどほどに――足掻いてもしょせん 「障害者スポーツ」だろうが」

 (第3巻18P−20P)


・・・こう言い放ったチームの某メンバーは、清涼飲料水を顔に引っ掛けられます。この論者は世間で普通に行われている・身障者への捉え方を代弁していると思いますが、車椅子バスケットの世界でプライドを持ち、邁進する姿は美しく、また力強いものなのでしょう。やったことのない私には解りませんが。



今日のひと言:これは、私の偏見かもしれませんが、パラリンピックと言う競技を滞りなく遂行するために、いわゆるバリアフリー化という土建工事が行われます。この種の工事は、土建屋を儲けさせることが主眼であって、パラリンピックの参加者にとってどれほど必要なのか解りません。都内の全域をバリアフリー化するなら、工事全般で膨大な金が動き、競技者の便益に繋がる以上の工事が行われるような気がします。そして誘致自治体(東京都)を襲うのは、過重な施設を建てたことによる財政赤字。資本主義社会は全ての活動が「マネー」で括られるので、仕方がないのかも知れませんが。


リアル 1 (Young jump comics)

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身体障がい者スポーツ完全ガイド―パラリンピアンからのメッセージ

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障害者とスポーツ (岩波新書)

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