「虫食む人々の暮らし」(書評)・昆虫食の現在
「虫を食べる」というと、眉をひそめる人も多いでしょう。「今や、人類に昆虫食は無用だ」といった立場になるのでしょう。
ところで、私はこれまで昆虫を数種、食べたことがあります。一番美味しかったのは「セミの幼虫」で、から揚げにして食べましたが、「エビ」の味がして面白かったです。あと、千曲川で、水棲昆虫の「ザザムシ」を捕獲し、簡易燻製にして食べたこともあります。(ザザムシは天竜川のものが有名ですが、千曲川でも取れました。)蜂の子は缶詰で食べ、カイコのさなぎは食べたことがありません。あと、ポピュラーなものとして、イナゴの佃煮は、よく食べました。
以上に挙げた昆虫のほかに、「虫食む人々の暮らし」にはカミキリムシの幼虫の例も挙げられていますが、これを食べるには勇気がいるようですね。蜂の子(へぼ:クロスズメバチの幼虫)については、「へぼの押し寿司」(岐阜県多治見市)という料理もあるらしく、これは食べてみたく思います。
さて、著者の野中健一さんは、ここ日本から海外に飛び出し、各地の昆虫にまつわるフォークロアを拾っていますが、なかでもスサマジイお話を二つ。
「モパニムシ」。アフリカで幅広く食べられているイモムシで、ヤママユガの幼虫です。南アフリカでは市にも出店が多く並び、住民はスナックとかにしたりシチューにいれて食べる。何ら珍しい食習慣ではないそうです。モパニというのは、このムシが取れる木の名称です。はらわたを取り、乾燥させたり油で炒めたりして日持ちさせる工夫がなされています。私もイモムシを食べるのには抵抗がありますが・・・
「カメムシ」。あの独特の悪臭を発するムシです。野中さんのフィールドワークの報告は南アフリカ中心のアフリカと東南アジアのラオスが核となっていますが、カメムシはどちらの地域も食材にしているという昆虫です。南アフリカでは、カメムシを容器にいれて熱湯をかけ、悪臭を熱湯に移すという工程によって食べられる状態にするのだそうです。その残り液は「有毒!!」らしく、眼に入ったら失明の危険性もあるのだとか。
また、ラオスでは、カメムシの品種にもよるでしょうが、そのまま食べちゃうらしいです。彼らは、カメムシの臭いに近い香りを出すハーブ・コリアンダー(パクチー)を好んで食べますから、あまり気にもならないということでしょうか。それと、ハーブ・レモングラスにより臭いを中和できるのだから、とも。
さて、このような昆虫食から、学生のフィールドワーカーの適性を計れるという人がいます。アメリカの人類学者・マーヴィン・ハリスさんが、「イナゴの缶詰」を食べさせ、文化の違いを考えさせるという授業をしていたとのことです。調査対象地域に行ってその地域に溶け込むというのは、フィールドワーカーとしての必須の資質ですからね。
野中さんも彼の授業で昆虫食の授業をすると、文科系の学生は拒絶反応を起すのにたいし、理科系の学生はあんがい興味を持つ(そして試食する)ものがいるようです。なかでも教育学部(文科系)の学生は、「そんなもの食べたら「虫を食べたと」後ろ指さされる」という人もいるそうです。
異文化の理解という観点から、これら教育学部の学生たちには、自己啓発して欲しいですね。そのように偏った感性の人が、小・中・高校の教諭になると困りますからねえ。
昆虫食についての大きな誤解は「貴重なタンパク源だから」「海から遠いから」昆虫を食べるという解釈です。これらについても、野中さんは否定します。「美味しいという文化」に根付いている、というのです。
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今日のひと言:人類学上のフィールドワーカーというのは面白い仕事ですね。これまでにも私は「じゃがいもの来た道」という本を取り上げたことがありますが、この本の著者も、綿密なフィールドワークをしていました。この二冊は男性の書いたものですが、女性の吉田よし子さんの「マメな豆の話」も面白かったです。このような滞在型の研究は、女性科学者が向いているようです。五感を使い、「生活」を学び取るのですね。