近松門左衛門の「虚実皮膜論:きょじつひまくろん」
私が拙ブログを立ち上げたころ、近松門左衛門の「虚実皮膜論」が話題になったことがあり、私のブログのタイトル「虚虚実実――ウルトラバイバル」も同じ字を含んでいるので、興味がありまして、今回エントリーすることにしました。(なお、近松門左衛門は「日本のシェークスピア(シェイクスピア)」とも呼ばれるそうです。)
http://homepage2.nifty.com/hay/hiketu.html (「浄瑠璃の秘訣」より。)
(6)「芸といふものは実と虚との皮膜の間にあるもの也」
有名な「虚実皮膜論」(普通は「きょじつひまくろん」と読むが、原本には「きょじつひにくろん」と振り仮名があるという)の文句です。
芸は、実際に似せて演じるが、同時に美化する。ある御所方の女房が、恋人と寸分違わぬ姿をした木像を作り、彩色させたところ、あまりに似すぎて、かえって興ざめ、恋もさめてしまったそうだ。実際すぎても、いけない。
「虚(うそ)にして虚にあらず、実にして実にあらず、この間に慰(なぐさみ)が有るもの也」
虚と実との微妙な境目にこそ、芸の面白さがあり、観客は魅了されるものである。浄瑠璃の文章も、その心得を忘れてはならない。
なお、「虚実皮膜論」については、近松門左衛門は、生前口にしていなかったとのことです。彼の弟子筋(穂積以貫:難波土産)によって近松の談話だとして「創造」された論でしたが、これこそ「虚実皮膜」、深層=真相は不可知ですね。ウソとホント、どのあたり?という具合なのですね。このような例は他にもいろいろあり、「老子」と「無為自然」、「イエス・キリスト」と「新約聖書」・・・などなど、有名な人の著作がらみでこのような「虚実皮膜」が結構あると思います。(「老子」には「無為自然」という言葉は出てこない、新約聖書は、直接イエスが書いたものではない、など。そういえば親鸞の教えがあまりに捻じ曲げられて継承されるのを嘆いて「歎異抄」(唯円)が書かれましたね。・・・こんな具合です。)
元禄時代の三大文人として、近松門左衛門、井原西鶴、松尾芭蕉が挙げられますが、近松は松尾と同じく芸術の頂点に立っていた文人だったようです。
近松の書く人形浄瑠璃は、「情=情念」を描ききる筋のものだったと感じます。その大きな感情を植えつける媒体として人形が良かったのでしょうね。さらには男女の業(ごう)というものも語っているかと思います。
以前、ビデオで見た向田邦子の作品「阿修羅のごとく」で、人形浄瑠璃が挿話としてでてきましたが、それが丁度「娘道成寺」だったのが印象的です。清姫が恋に狂い蛇身に身をやつすとき、顔が、(カラクリによって)鬼の表情になるという効果が使われています。「阿修羅のごとく」の登場人物たちも、そんな感じでした。
この「娘道成寺」の場合も、清姫が超自然的な存在になるというのは、じつは虚(きょ=ウソ)であり、であるからして、実ともなりうる、いや、実(じつ)より実(じつ)になる、と言った感じでしょうか。まるで、現代のマンガにおける大げさな誇張法と同じ原理を採用しているようにも思えます。
「娘道成寺」にみる男女関係:http://d.hatena.ne.jp/iirei/20090526
近松門左衛門 1653−1724 代表作「曽根崎心中」 「冥土の飛脚」 「国性爺合戦」 「心中天網島」 「女殺油地獄」など多数。人形浄瑠璃だけでなく、歌舞伎の脚本も得意としました。ただし、「京鹿子娘道成寺」については、検索してみましたが、はっきりと近松の作という話は出てきませんでした。もっと調べてみると、作者・藤本斗文作詞、杵屋作十郎・弥三郎作曲。振付・初代中村富十郎。音楽・道行=義太夫、本舞台=長唄 。・・・となっていました。(wikipediaより)
今日のひと言:井原西鶴を私があんまり評価しないのは、彼が「一晩なり一日なりで」数百数千数万の俳句をひねり出すという「荒業」(俳諧大矢数)を得意とし、それでは、芸術的な俳句は詠めまい、と思うからです。なんでも数に還元しちゃう姿勢が嫌いなのですね。「女護が島」に向けて出航した「好色一代男」の主人公・世之介のように。これは、男性の悪癖でもあります。寝た女の数を誇るかのような。俗にいう「女千人斬り」ですね。
PS:NHKビデオ(1984)の「女殺油地獄」(脚本:富岡多恵子・演出:和田勉)を見てみました。主役は松田優作(役名:与平衛)。彼は、大阪の油屋の次男坊で、遊郭遊びで店の金を浪費する放蕩息子。なにか成長過程に問題があったのかと思えるほどの余りの放蕩ぶりに、母と義父は勘当を言い渡しますが、同じ油屋のお吉(小川知子・演じる)に、与兵衛にお小遣いを預けます。それを手にした与兵衛はさらに200両、貸してほしいとお吉にせがみますが、拒否され、彼が買うといった油を汲むお吉を刺し、油の海の中で与兵衛に殺害される・・・という救いようのないお話でした。だめんず(by倉田真由美)を絵に描いたようなキャラですね。「この「女殺油地獄」は、近松門左衛門にしては初演当時不評だったそうで(恋愛話が出てこないとか)、現代になって再評価された作品であるらしいです。(wikipedia)」
なお、「女殺油地獄」には、実話があったとのこと。このように近松門左衛門は実話をネタにすることが多かったようです。

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