虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

日暮硯と書経〜〜政治家の資質とは

図書館でアットランダムに文庫本を漁っていたら、目についたのが「日暮硯ひぐらしすずり」。名前だけは知っていましたので、借りてくることにしたのです。


この本は、信濃松代藩主、真田幸弘真田幸村の兄・信之の家系で18世紀後半に治世)の家老・恩田民親が幸弘の命により藩の大蔵大臣に就いてからの言行録です。日暮硯に関する本は多々あれど、西武セゾングループの総帥だった故・堤清二(詩人・小説家としてのペンネームが辻井喬)さんが現代語訳と解説を担当している、かなりユニークな本です。(三笠書房:1988年初版)


恩田民親(おんだ・たみちか、享保2年(1717年) - 宝暦12年1月6日(1762年1月30日))は江戸時代中期の松代藩家老。百官名は木工。恩田木工(おんだ・もく、「杢」とも記される)として知られる。」(カッコ内:wikiより)


そもそも、藩主・幸弘自身聡明な君主でした。あるとき、家臣に楽しめるものはないか、と下問して、小才の利くその家臣が「鳥などを飼われるのが宜しいでしょう」と答えたので、実際巨大な「鳥かご」を作らせて、その家臣をかごに押し込み、その籠の中でならなにをしても自由にしても良い、としましたが、家臣は根を上げ、籠から出して欲しいと懇願したそうです。許した幸弘は、自由を奪われた鳥のことにも思いをいたさなければならないと諭したあと、この家臣をねぎらい、金子もあたえたそうです。この事例、幸弘が15歳だったころのエピソードだったそうです。


その真田幸弘をして、「大蔵大臣」として適任と見なされ、任命されたのが恩田土木なのですね。就任の要請のときには大いに迷い、なかなか引き受けませんでしたが、重ねての要望に折れ、木工はこの事業・・・藩の行政改革の大仕事に乗り出します。


まず、彼がやったのは、自身の身を清廉にするため、粗食に甘んじ、妻・子・親族らとの縁を切る、と宣言することでした。誤って悪い噂が立つようでは仕事が出来ませんので、そう宣言したのです。その木工の本音を察した妻・子・親族は、自分たちも同じように努力するので、絶縁は止めて欲しい、と懇願し、木工も諒としました。


確かに、この仕事は大変な憎まれ役であり、失敗したら切腹も覚悟の上の仕事だったのです。ただ、木工はきわめて優れた戦略・戦術で、この行政改革に邁進します。年貢の納め方が大変いい加減だったので、2、3年先の年貢を納める者がいるかと思えば今年の年貢も納められない者もいました。農民も交えた会議で、「年貢を払いすぎるのは大馬鹿者だし、役人も血も涙もないやつらだ」と断じ、でもその後で、農家・役人の窮余の策であったことを認めて安心させ、複数年の年貢の徴収を免除すると裁定しました。今年の年貢が納められない百姓には、今年分の年貢は免除しました。断罪したとしても、その後のフォローが優れていたし、そもそも、話の前段で、話し相手を木工自らの手の内に収めるという手腕が優れていたのです。


そして、特に面白いエピソードは「楽しみのない暮らしでは退屈だろう、趣味の範囲内でなら博打(ばくち:ギャンブル)も許そう」というお達しを出したところ、趣味ではなく商売で博打の胴元になるものが「やはり」現われ、博打で金銭をかっさらわれる人が続出しました。そこで木工、「趣味でない博打をやる(やらせる)とは言語道断」と、胴元たちに分捕り金の返還を迫り、すでにそのお金を使っていた胴元たちは非常に困り、自壊し、以後、博打をするものは皆無になったというのですね。


この辺に恩田木工の戦略・戦術眼の優れたところが解ります。民を自由に遊ばせるようでいて、将来の民の姿を見据えた政策を取る、という点です。なぜその活動がよくないのか、頭ごなしにではなく、民も納得できるような事実の流れを演出して、民に教えるという手続きが重要なのでしょう。(「どこかの国」のように、国家公認のカジノを設置しようという政治家は、この事績に恥ずかしくないのでしょうか?)


木工の政治は、倹約を旨とし、領民に文武両道の実践を促すものでしたが、あわせて宗教にも関心を持つことを奨励しています。彼が「大蔵大臣」に就いて数年後にははやくも改革の成果があらわれてきたというのですから、なかなかのものです。同じような眼目で幕府の改革を目指した松平定信の場合は、彼の言う「文武」という言葉が狂歌で冷やかされるほどの失敗だったのだと覚えていますが・・・


政治家の資質として、何が大切か、ということについては、古代中国の政治の記録であり祝祭文である「書経」が古来から有名ですが、この本でも、戦略・戦術を巧みに練り、民にどのように接するか、という一大テーマがあります。1つ、政治家は清廉でなければならない、2つ、条理を尽くして、王も家臣も民も納得づくで生きていかねばならない・・・このようなメッセージが、書経からも読取れるのです。



現代語で読む日暮硯 (知的生きかた文庫)

現代語で読む日暮硯 (知的生きかた文庫)

[新訳]日暮硯 藩政改革のバイブルに学ぶ人の動かし方

[新訳]日暮硯 藩政改革のバイブルに学ぶ人の動かし方

「書経」の帝王学―リーダー学の原点

「書経」の帝王学―リーダー学の原点

真田騒動―恩田木工 (新潮文庫)

真田騒動―恩田木工 (新潮文庫)



今日のひと言:「日暮硯」は木工から後の松代藩士の馬場正方がまとめた文書で、いくらか脚色しているらしいです。まあ、ご愛嬌ですね。



四角豆の収穫








この一年楽しませてくれた四角豆の鞘を乾かし、種を保存します。

 (2014.12.24)




@大黒本しめじの味噌汁








スーパーにあったのが、「本シメジ」との表示がある商品。なんでも栽培の難しい「本しめじ」を栽培可能にしてから10年だというので、買ってみました。味噌汁に入れましたが、軽いシャキシャキ感とやや濃い味で、これが本シメジか!と思いました。ただ、栽培物はいまだ天然物には及ばないそうです。なお、普通にいうシメジは「ヒラタケ」のことで、別物であり、かなり食感の面白い「ブナシメジ」も、シメジではありません。

 (2014.12.24)



@マヨ8ソース・ショウガ風味






マヨネーズと八丁味噌を2:1の割合で混ぜ、オロシショウガを入れました。細めのブロッコリースティック・セニョールサカタのタネ作出)をつけて食べました。コクがあるのがいいですね。この前作ったマヨ・ケチャソースのヴァリエーションです。

http://d.hatena.ne.jp/iirei/20141214#1418532673  マヨ・ケチャソース・ショウガ風味

 (2014.12.25)




今日の一首


子ねずみの
ゴキブリホイホイ
捕らわれぬ


怨みなけれど
ゴミに出すのみ

 (2014.12.28)



本ブログ、2014年のエントリーは、これが最後です。お付き合いいただきありがとうございました。
新年は1月3日からの掲載予定です。