ゾディアック→
美しい絵です。名画の条件として、「何度も観たくなる」感情を喚起できるか、ということがあるのでしょうが、この絵もその条件を満たしているようです。
ハッとするほど美しい女性の横顔、波打つ髪、過剰とまで言えそうにゴージャスな装飾品。そして、彼女の背後に写しだされる黄道12宮の画像たち。
この絵はアルフォンス・ミュシャ(Alphonse Mucha)の名声が高まってきたころ、1897年に室内用カレンダーとして製作されました。
チェコ生まれのミュシャは、いろいろな地を遍歴してフランスのパリにたどり着き、意匠製作を業としていましたが、1894年、女優サラ・ベルナール(Sarah Bernardt)の演劇宣伝用ポスターの仕事を引き受け、好評を得ます。ジスモンダ(Gismonda)という劇のポスターでした。ベルナールもミュシャの才能を高く評価し、その後数年間にわたり、ミュシャは、彼女のためにポスターを描くのです。この一連の活動は芸術運動「アール・ヌーボー(le Art Nouveau)」の流れの中にいます。
さて、ゾディアックについてなのですが、疑問点があります。それは、12宮の配置が、従来の占星術における反時計周りではなく、ちょうど鏡に映したかのように、時計回りになっている点です。また、スペース的に、牡羊座と魚座は、半分しか見えず、女性の真後ろに13番目の宮があるように描かれています。
ミュシャが占星術にどれほど造詣が深かったかは、よくわかりませんが、周回の方向については、意識的に作っていたように思えます。12宮という運命に囚われない人物を描きたかったのかもしれません。なお、12宮のことをゾディアック(獣帯:Zodiac)というのは、各宮のシンボルが動物になることが多いため、動物=Zooからとっているのです。
そして、後年1905年ごろから、ミュシャは、ポスター作りなどの所謂「アール・ヌーヴォー」運動から身を引き、祖国チェコのための絵画を描くのに没頭します。「スラヴ叙事詩」の大作20枚です。チェコ出身作曲家スメタナ(Smetana)の「我が祖国」に強い影響を受けたのです。このころの呼び名はミュシャというより、チェコ流にムハとなっていて、アール・ヌーボー期とは違った表情をみせているのです。
参考文献:「アルフォンス・ミュシャ/アール・ヌーボー・スタイルを確立した華麗なる装飾」(島田紀夫:株式会社六曜社、絵も)
今日のひと言:ミュシャもナチス・ドイツの被害者です。芸術も検閲したナチスたちは、ミュシャも容赦なくしょっ引きます。スラヴ叙事詩の作者に、反抗の香りを嗅いだからでしょう。取調べのあと、ミュシャは理不尽にも亡くなります。
ミュシャ アール・ヌーヴォーの美神たち (ショトル・ミュージアム)
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今日のひと言2:08年7月9日のNHK「クローズアップ現代」で、工場がどんどん中国国内から東南アジアに移転しているというお話がありました。中国人の人件費と比べても、人件費が安いからですが、いまでも、ほぼ「自給自足」的なラオスにまで資本主義を導入して、ラオス国民を「金の亡者にする」のはいかがなものか。このような工場移転は日本、中国ともに、盛んにやっているとのこと。