虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

塩素(カルキ)の旅•地獄絵図

塩素(カルキ)の旅 (絵本の原案)(1999年09月18日)

地獄絵図(自筆マンガを卒業論文の扉絵にしたもの)


以下は、神が人間にダメ出しし、人間が合科学的に、論理的思考を組み立てるほど、自然から徹底的に排除されると言う地獄絵図です。人間が行き着く先は、底なし地獄になるという、考えた自分も、恐ろしくなる「絵本の案」です。

        松久義也

1. 海水中の塩(NaCl)はNa+とCl―が結合したものであり、Na+は妻、Cl- は夫だ。この2人はとても仲睦まじい夫婦で億年単位の安定した家庭を作る。
2. ところが人が発明した「電気分解」という技術は、この夫婦を無理やり引きはがし、NaOH(ソーダちゃん)とCl2(カルキくん)にする。
3. NaOHはいろいろな工業原料と工業原料として役に立つが、有害なCl2(カルキくん)も同時にできるため、NaOHの需要も頭打ちだった。
4. そこに第一次世界大戦、毒ガスとしてCl2(カルキくん)が使われるようになり、戦争後は平和利用と称してPCBやDDTなどの有機塩素化合物が使われるようになった。不安定なCl2(カルキくん)は色々な相手と反応(セックス)して「望まれない子」を産ませるのだ。
5. Cl2(カルキくん)が手当たり次第に反応(セックス)して産ませる有機塩素化合物は、炭素(C)と塩素(Cl)が直接結合してできるC-Clの構造を持ち、この形は自然界の物質にはほとんど存在しない。(有機塩素化合物をククルくんと呼ぼう。)
6. Cl2(カルキくん)を水に入れれば、トリハロメタンが生まれる。
7. 塩化ヴィニルを燃やせば、ダイオキシンが生まれる。トリハロメタンダイオキシンもどちらもクルルくんで兄弟だ。
8. クルルくんは人の体に入ると細胞を傷めつけ、ガンを引き起こしたり、精子卵子に影響を与えたりする。なんと言っても自然界にはいない者だから。
9. オゾン層を破壊するフロンも広い意味でククルくんと考えられる。回収されないで空中に放出されたフロンは成層圏へ行く。
10. フロンは成層圏で分解して塩素ラジカルになる。これはものスゴイ反応力(セックス力)を持つ。海水の成分である塩素は大空に進出したことになる訳だ。
11. 塩素ラジカルはO3(オゾン)と喧嘩してオゾンを食い尽くす。どちらも浄水処理で酸化剤として使うものだから、似た者同士の共食いと言える。
12. オゾンが無くなると(波長が短く強い)紫外線が空気を素通りして地上に、そして全ての生き物に降り注ぐ。
13. 紫外線は人体に入ると、活性酸素を発生させて、これが体内で暴れまくる。
14. よく考えてみると活性酸素は大気中のオゾンと同じものだと言える。
15. すると塩素ラジカルは大気中のオゾンを体内に移動させたことにほかならず、その威力は失明や皮膚ガンなどを生みだす。
16. カルキくん(Cl2)が大気中に行くということは、海が大気に満ちていくことと同等である。
17. すると人間は深海魚だ。――「深海魚には、目は要らない!」との自然の判決が下され、殆どの人が失明することになるだろうと思慮される。
18. カルキくんはどこに住むのが良いのか、人はどうすれば良いのか、よく考えてみよう。  (了)

以上が18ページの絵本としてのシナリオです。この話を絵本に仕立てあげる際の難点は、どうしても化学の専門用語が多くなり、簡単な擬人法では登場する物質が増えすぎ、こなれた話になりにくいという点です。話の粗筋はこれで良いと思いますが、これより先は私とは異質な発想を持てる誰かの協力が必要だと思- われます。


松久義也

1999年09月18日