虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

『君たちはどう生きるか』:吉野源三郎~その現代的意味(随想録―81)

君たちはどう生きるか』:吉野源三郎~その現代的意味(随想録―81)



数年前、この小説はマンガ化され、結構売れたそうだ。マンガにしなければ読まれないというのは現代的だが、それを知ったアニメ界のレジェンド・引退していたはずの宮崎駿が「次はこれだな」と意欲を燃やし、実際に2022年末、次回作にすると発表した。




私も吉野さんの原作を読んでみたが、地味なお話で、これをアニメ化するのは大変な冒険だと思った。まあ、地味ではあるが、私は結構面白く読了した。地味な話であるのと詰まらない話であるのは別物だから。読んでいて、いくつかのエピソードが印象的だった。


学識豊かな叔父さんから、「コペル君」とあだ名された中学2年生(旧制)の男の子が主人公。物の見方が変貌し始める年頃のコペル君、それを愛でて叔父さんが付けたあだ名だ。地動説のコペルニクスから取っている。この小説のテーマは多様で、社会科学でいう「生産関係」に当たることを、コペル君が独自に発見し、それを叔父さんが正確な用語に言い換えるお話、自然科学で、ニュートン万有引力の法則を発見する過程を、ニュートンの思考に遡って叔父さんが解き明かす話、この2つがこの小説の前半のハイライトになっている。


後半は、「倫理」のお話になり、むしろこれらの記述がこの『君たちはどう生きるか』の中心と言って良いだろう。コペル君の通う中学は、主に社会の上流階級の子息が多い学校で、下流階級の子息もいるが、階級のギャップから、そんな子をからかってバカにする生徒もいる。コペル君も上流だが、からかわれる子にシンパシーを感じ、親しくなる。そんな2人を含め、4人が仲良しグループになり、その1人の家でパーティーを行う。だが、4人の1人が「生意気」だと柔道の強い上級生ににらまれ、いつかはリンチされそうだとの空気の中、やられるなら4人揃って殴られてしまおう、と約束する・・・


そして、実際それは起き、3人は揃って殴られるが、コペル君だけは気怖じし、知らぬ顔をして3人が殴られることを傍観してしまう。コペル君は、それを悔い、1週間も寝込んでしまう、といったお話である。さて、この「裏切り」の顛末は・・・?


吉野さんは、作家の山本有三氏が企画した「日本少国民文庫」16巻の1巻として、この作品を書いた。盧溝橋事件をきっかけに、日本が暗闇を爆走する時代だった。戦後、表現を変えて再刊され、いわゆる「非国民」などの言葉は変えられたそうだが、私が読んだ岩波文庫ワイド版では、旧来の表記に戻したそうだ。それで良いと思う。過去の汚点を隠してはならない。それでこそ現代で読まれる意味がある。

 (2023.01.25)





今日の7句



華奢な花
高山植物
さも似たり



 (2023.01.19)



CDを
鳥よけにする
無粋さや




 (23.01.19)



プランター
ほうれん草を
植えるあり



普通植えない。

 (2023・01.21)



鉢植えの
小菊清楚に
咲きにけり



 (2023.01.21)



寒空に
デンドロビウム
震えけり



 (2023.01.21)



新芽出で
春を待つなり
小花木



 (2023.01.21)



紅葉し
艶やかなりし
サキュレント



ベンケイソウ科か。

 (2023.01.21)