虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

欧米人は、目を剥くような「老子」解釈を行っている!(随想録―78)

欧米人は、目を剥くような「老子」解釈を行っている!(随想録―78)



以下はむかし友人に教えてもらった、「老子の一節」である。(細部は忘れたので、だいたい)


「誰かを深く愛すれば、それだけ力が生まれる。」The more you love someone, the stronger you become.


この言葉を教えてくれた人は、一読、ずっこけたと言っていた。このような「性愛」まがいの言葉は、老子(Lao Tzu)本編には「一切」出てこない。そもそも、老子は「ベタな愛」を語ることが少ない。意図的な誤読ではないのか。もっと驚いたのは、この同じ言葉が、タンブラーの「名句の引用」を事とするブロガーによって、昨年挙げられていたのを見たこと。


そこで、このブロガーにリプライ(コメント)を書き、「私は老子を数回原文で読んでいるが、こんな表現は見たことがない。第何章の記述か、はっきり明示しろ」とした。するとこのブロガーは私のリプライを削除し、同じ文章をまた挙げた。まあ、不誠実な奴である。




こんな具合で、タンブラーに記載される「老子」の文章を読んで、腑に落ちたことはほとんどない。良くて、原文を忠実にトレースしているのみで、独自の解釈もない。こんなのもある。


"Watch your thoughts, they become your words.
Watch your words, they become your actions.
Watch your actions, they become your habits.
Watch your habits, they become your character.
Watch your character, it becomes your destiny.”

Lao Tzu


思考を見よ、それは言葉になる。
言葉を見よ、それは行動になる。
行動を見よ、それは習慣になる。
習慣を見よ、それは特徴になる。
特徴を見よ、それは運命になる。

   老子


たしかに、老子には対句を始め、詩的表現は多いが、こんな言葉を、私は『老子』の中で見たことがない。むしろ世間知に長けた中小企業の社長が、朝の朝礼で得意気に披露する「人生訓」以上のものではあるまい。(私はそんな実例を知っている。)


では、なぜこんなに欧米人の抱く「老子像」は変なのか。もちろん原典を読みこなすことは欧米人には難しかろう。だから誰か、老子とは別の人の言説を引っ張ってくる者がいるとして、もし、その「注釈者」・・・たとえば中国人ではなく、インド人のニセ尊者・・・が自分の説教に都合よく老子を捻じ曲げるのだとしたらどうだろう。出て来る「格言」も捻じ曲がり、老子の言葉とは似ても似つかぬものになってしまうだろう。


もちろんそれを受容する欧米人にしても、自分が持っている世界観に大きな変更を迫らぬ限り、安心できるということもあるだろう。このようにして、変な老子が流通するようになるのだ。(実際、タンブラーでは、仏教、道教、ヨガ、ヒンズー教などの境界が曖昧であるように思う。ついでに言えば、ヨガは「健康体操」に過ぎず、精神を鍛える禅とは、月とスッポンである。)

   (2023.01.08)





今日の7句


銀杏の
大地に帰る
暖かさ



ぎんなん。

 (2023.01.02)



寒定家
葉も黒々と
焼けにけり



キョウチクトウ科の花木。毒草。

 (2023.01.03)



雪降ると
白妙菊の
見まがえり



 (2023.01.03)



この赤さ
値千金
輝けり



「千両」の実。

 (2023.01.04)



マグノリア
青空へ向け
白蕾



モクレン

 (2023.01.05)



アザミ苗
這いつくばりて
春を待つ



ロゼッタといいます。

 (2023.01.05)



バーズアイ
はやちらほらと
咲きにけり



 オオイヌノフグリ

 (2023.01.05)