虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

「ものくさ太郎」:やまだ紫~デフォルメの妙(随想録―64)

「ものくさ太郎」:やまだ紫~デフォルメの妙(随想録―64)



このマンガ作品は、女性マンガ家:やまだ紫が、中央公論社の「マンガ日本の古典」全32巻の一冊として任され、江戸時代初期のころの成立である説話集『御伽草子(おとぎぞうし)』の5、6話をマンガ化したものの一話である。この作品集には、「一寸法師」「鉢かつぎ」「酒呑童子」など、名だたる作品が多いが、やまだは見事にマンガ化している。(やまだは、エッセイッスト、詩人でもある。)




なかでも、私が最も気に入ったのは、「ものくさ太郎」だ。怠け者で、貰って、転がったお握りさえ人に取ってもらおうとするほどの豪の者だ(ただし頭の回転は早い。)。この男、妻を欲しくなり都に出るのだが、「勤労」ということを生まれて初めて身を入れて行い、これも悪くないなと思っていたころ、「辻取:つじとり」という方法があるのを教わる。道道行く、牛車にも乗らず徒歩であるく女を、むりやり自分のものにしてしまう、という乱暴な嫁取りだ。(強姦ではない、念のため。)


そのつもりで道行く女たちを観察していると、日暮れ時に「この女!」というのに出会う。さっそくかき口説くが、もちろん迷惑がる女、ただ今後の伏線になるのだが、女はものくさの弁舌には舌を巻いている。(即興の和歌のやり取りも巧みだ)この場では振り切ろうと、居場所を示唆して、侍女とともに逃げる。ものくさはそれでも、居場所を突き止め、訪問するが、追い出さぬ女・・・


このマンガ家、画面構成が簡潔にして洒脱だ。マンガを熟知している(ちなみに、やまだは京都精華大学でマンガの教授をしていたという)。そして面白いのが、ものくさと女の間をつなぐ侍女だ。「なでしこ」という名だ。この侍女、女主人やものくさは手を抜いて描かれないが、思いっきりデフォルメして描かれる。この加減が実に良いのだ。あるときは軽薄、あるときは非情、あるときは親切、あるときは投げやり、という感じで、デフォルメされた表情で行動する。まあ、女主人の代弁者だな。目出度きことに、ものくさの恋は実を結ぶ。




やまだは、『御伽草子』の後書きで、入退院を繰り返し、依頼から3、4年たってしまった、と書いていたが、この作品は1997年に脱稿していたが、2002年には腎臓摘出手術、引き続く1型糖尿病、厳しい闘病の末2009年には世を去ったという。惜しいマンガ家だ。冥福を祈る。それにしても、命を削って、ユニークな侍女を描き切ったやまだ紫のマンガ家根性は立派。

 (2022.11.29)







今日の7句


シュークリーム
のごときボリューム
山茶花



酷い字余り。このままでよい。

 (2022.11.25)



道端に
ちんまり咲くや
山茶花




 (2022.11.25)



黄葉の道
さっくり踏んで
朝の行



 (2022.11.25)



残る色
紫ばかり
冬の色



 ムラサキシキブの実のみ残り。

 (2022.11.25)



ラベンダー
切り詰められて
窮屈気



 (2022.11.26)



信楽
大きな狸
あくびをし




庭先に何体も狸を置く民家。

 (2022.11.26)



ああ、これぞ
夜明けなりけり
微かなり


 (2022.11.27)