虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

『杜子春』(芥川龍之介)と地獄:仏教を受容する中国文明

杜子春』(芥川龍之介)と地獄:仏教を受容する中国文明

芥川龍之介は、才能のカタマリのような人で、大人向きの思わず唸るような小説、箴言、詩歌などを世に出しています。その彼はまた、優れた童話もものしています。『杜子春』、『蜘蛛の糸』、『トロッコ』などが代表作ですが、そのうち『杜子春:とししゅん』について今回考えてみます。


その粗筋は周知のことでしょうが(多くの人は多分中学校の国語で接しているかと思います。)、世に絶望した好青年・杜子春は、たまたま出会った仙人を頼り、自分も仙人になりたいと思い、仙人に弟子入りします。そして杜子春は過酷な試験を受けます。それは何をされても、またしゃべりかけられても、決して口を利かないこと、という試練でした。


杜子春は、自分が殺されても、地獄に落ちても、決して口を利きませんでした。そのとき閻魔大王は、六道の一つ、畜生道に落ちて馬になっていた父母を連れてきて、杜子春の代わりに父母に拷問を加えるのです。仮借ない拷問の中で、馬となった母は杜子春に「お前が仙人になりたいのなら、私たちのことは気にせずに、邁進しなさい」と呟きます。思わず杜子春は「お母さん・・・」と口にします・・・これで仙人には成れなくなりましたが、杜子春は仙人に桃源郷ともいえる仙人の別荘を譲られます。大団円。


このお話で最近気付いたことがあります。杜子春は仙人に弟子入りしたということは、とりもなおさず道教の道士のことであり、本来、六道(地獄、畜生、餓鬼など)などの仏教的な教義はなかったハズだと思われるのです。この矛盾はどうして生じるのでしょうか?


この辺について、このような記述がありました。


仏教の影響のある死後世界

最近は中国の解放政策以降、これまで迷信として禁止されてきた道教も認められるようになってきた。それまでは家の中で秘かに信仰していた民衆も、公然と道教の寺院に詣でるようになった。古代中国では、死者は黄泉あるいは泰山に行って安眠すると信じられていたが、仏教が伝わると、地獄の説が取り入れられるようになり、そこは陰惨な刑罰が繰り返される牢獄となった。同時に中国の警察・裁判組織を反映し極めて官僚的な冥府に変化した。人が死ぬとその魂は冥界の知事に、農村であれば土地廟に留置され、そこで拷問を受けたあと、泰山等の中央の冥府に送られる。

(中略)

生前の行為を映す鏡

死者が冥途に着くとそこで裁判を受ける。善悪の秤に掛けられるのである。死者の生前の行為を記録した帳簿を一方に乗せ、善と悪の牌をもう一方に乗せてその重さで、罪を計るのである。中国では日常の善悪の行為を記録し、その人の成績を評定する「功過格」というものがある。また冥途には、業という巨大な鏡がある。死者が虚偽の申し立てをしようとも、死者の生前の行為があからさまに映し出されるのである。

http://www.osoushiki-plaza.com/anoyo/shukyo/tao.html

 道教


中国人がインドの仏教を受容した際に、みごとに「地獄」の教義も取り入れたということなのでしょう。この経緯には、道教側からの働きかけもあるでしょう。そもそも仏教の「空」という難解な概念について、元からあった老荘思想の「無」というものにひきつけて考えたということもありますね。


今日のひと言:地獄のありさまについて、閻魔大王を頂点とする官僚機構は、中国人の独創らしいですね。



芥川龍之介についての過去ログ

http://d.hatena.ne.jp/iirei/20100804#1280879338
 :芥川龍之介と私・・・侏儒(しゅじゅ)の言葉

http://d.hatena.ne.jp/iirei/20100809#1281289089
 :アナトール・フランスエピクロスの園」・・芥川の師+開発は止めよ

http://d.hatena.ne.jp/iirei/20120802#1343902288
  :芥川龍之介徒然草+「なすの蒲焼き重」(2本立て)

http://d.hatena.ne.jp/iirei/20150329#1427600266
  :「枯野抄の心理」〜ひねくれた芥川龍之介

https://iirei.hatenablog.com/entry/20180606/1528224154
  :芥川龍之介と『河童』(かっぱ)〜鬼才最期の光芒

(これは一部です。まあ、悪くは言っても、私は芥川龍之介が好きなのですね。)




蜘蛛の糸・杜子春 (新潮文庫)

蜘蛛の糸・杜子春 (新潮文庫)

道教経典の形成と仏教

道教経典の形成と仏教

芥川龍之介作品集6 翻訳、劇作、童話、俳句・短歌・詩歌など54作品

芥川龍之介作品集6 翻訳、劇作、童話、俳句・短歌・詩歌など54作品





今日の一品


@ウドの炒め物・ポン酢掛け


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ぶつ切りにしたウドを水に晒し、フライパンにオリーブオイルを熱してウドを炒め、七味唐辛子を加え、降ろす間際にポン酢を掛けました。

 (2019・02.06)



@結束シラタキの醤油バター炒め


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弟作。鍋物に便利な結束シラタキ。これをバターで炒め、醤油、胡椒して味付け。案外美味しい。

 (2019.02.06)



フダンソウのお浸し


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フダンソウは、不断草ということで、一年中、絶やさず栽培できることからこの名がつきました。別名:夏ホウレンソウ。同じアカザ科の植物です。スイスチャードとほぼ同じで、赤蕪:ビーツとも同類です。(英名はフダンソウもビーツです)ホウレンソウと同じように調理できますが、この時期でも甘くて美味しいです。

 (2019.02.07)



白モツのクコの実煮


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圧力鍋で10分加熱して柔らかくした白モツを、ニンニクをオリーブオイルで炒めた鍋に入れ、少々炒め、水を入れてネギ、塩、ローリエ、黒トウガラシを追加し、しばらく煮た後、クコの実を入れ、矯臭のためナツメグ、胡椒を振って、火から降ろします。モツが柔らかくて美味しい。

 (2019.02.10)



@チーズとポテトのスタッフド・ピーマン


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弟作。ポテトはあらかじめ電子レンジで加熱し、くりぬいたピーマンに、塩、小エビ、チーズとともに入れてオーブントースターで180°、12分。食材がなじんで美味しい。

 (2019.02.10)







今日の四句


ヒバリ(雲雀)かな
囀り(さえずり)舞うは
立春

 (2019.02.07)



久しぶり
トウダイグサ
かくれんぼ


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トウダイグサ灯台草は、毒草ですがその形態がユニークな野草です。最近は邪魔者扱いされて農薬などを掛けられ、あまりその姿を見なくなりました。

 (2019.02.09)



初雪の
降り出したるや
十時過ぎ


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白く斜めに映っているのが雪。

 (2019.02.09)



まだら雪
矛盾すれども
美しき


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昨夜来の雪はあまり積もらなかったですが、それなりに美しかったのです。

 (2019.02.10)