アインシュタイン(1879―1955)といえば、20世紀最大の天才物理学者と呼ばれた大学者、フロイト(1856−1939)は卓越した心理学者で、夢、無意識を研究した大学者。ふたりともユダヤ人でした。なぜこの二人が往復書簡を取り交わしたかというと、悲惨な戦争をだれしも体験し、第一次世界大戦後に設立された国際連盟が、アインシュタインに、「誰か、適切な相手を指名して、好きなテーマでやり取りをして欲しい」と依頼したのですね。そこでアインシュタインが選んだのがフロイトだったのです。
アインシュタインは、「戦争」をテーマに選び、フロイトに熱の籠もった一文を送ります。その文章は、アインシュタインがいかにも物理学者だなと解るような、幾分、社会科学としては物足りないな、との印象を持ちますが、フロイトは社会科学者らしく十全な回答で答えています。
『ヒトはなぜ戦争をするのか? アインシュタインとフロイトの往復書簡 』という本を今回読みました。著者はこの2人(当然ですが)、編訳:浅見昇吾、解説:養老孟司 花風社 です。
アインシュタインは「権力と戦争」という対比を大きく取り上げましたが、フロイトはこの「権力」というのを「暴力」に置き換えて考察しています。このほうが、ことの本質がより良く抉り出せると思います。フロイトいわく、「暴力」は、生物としての人間には「必ず」備わっている破壊衝動だと。
人間が持つおおきな衝動として、建設的な「エロス」と破壊的な「タナトス」という2つがあり、両者ともに人間の諸活動に端的に現れるというわけです。「エロス」が多く発現されれば、『人と人の間の感情と心の絆を作り上げるものは、すべて戦争を阻むはずなのです。』(50P)そして、それを担保する「文化」が必要なのだ、と。
その紐帯を作り上げることが戦争を阻止する要だとされていますが、現実はなかなかそうもいかないようです。おりしも、この往復書簡がやり取りされた1932年は、ドイツでナチスが国運を左右するほど拡張した年であり、ユダヤ人絶滅の妄想に燃えたヒットラーはそろそろ本性を表わし始めたころです。アインシュタインもフロイトも、ユダヤ人であるがゆえにドイツの国外に亡命しています。そんなわけで、この往復書簡はその後長きに渡って消えた文書となってしまいました。
そして、あれほど熱心な平和主義者であったアインシュタインは、ドイツが原爆を作り出す前にと、アメリカ大統領・F・ルーズベルトに原爆製造を進言します。ユダヤ人としての立場が、平和主義者としての立場を上回ってしまったのでしょう。
今日のひと言:アインシュタインのその後の行動は、原水爆禁止をB.ラッセル(数学者・論理哲学者)らとともに訴えますが、ラッセルはともかくアインシュタインには説得力が無かったですね。とにかく、原爆の製造・使用をルーズベルトへの手紙で訴えたのですから。
なお、中国の陰陽五行論では、「木・火・土・金・水」のうち、「金」は「攻撃」という機能を持つとされています。古代中国人の透徹した知性は、「破壊」「破壊衝動」も確たる現実だとしていました。フロイトと同様です。
人はなぜ戦争をするのか エロスとタナトス (光文社古典新訳文庫)
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今日の一品
@パクチー入り味噌汁
以前、味噌汁にディル(ハーブ)をいれてみたことを書きましたが、今回はパクチー(コリアンダー)の葉を。2枝くらいながら、見事に風味が出ていました。
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20161125#1480068451 :ディル
(2017.02.06)
@春を告げるスナップエンドウ
弟作。旬のスナップエンドウをオリーブオイル、ナンプラー、カツオ節で炒めました。春の味。
(2017.02.06)
たまに買ってくるアルファルファのモヤシ、今日は「終わりかけたコチュジャンのガラス容器ごと、蓋をせずに電子レンジに掛けてよく溶かし、味噌と合わせたソース」でアルファルファに味付けしました。赤いのはケチャップではありません。
(2017.02.09)
@子持ちカレイの煮付け
弟作。たっぷり卵が食べられる子持ちカレイ、丸鶏ガラの素、砂糖、醤油、ショウガで煮ました。保温調理鍋での加熱なので、実際ガスコンロに掛ける時間は短縮できます。
(2017.02.09)
今日の二句
その尻尾
疑問符のごと
振る猫や
中々の面構えの白・黒の猫を目撃しました。
(2017.02.08)
鰈(かれい)骨
華麗(かれい)なるかな
夕食後
鰈の骨の整然としたところに興じて。
(2017.02.09)