虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

「無名の人生」(渡辺京二)の“言いも言ったり”(書評)

2014年8月22日の朝日新聞に紹介されていた本が目にとまり、図書館に蔵書のリクエストをして、それが叶えられ、読んでみました。その本は「無名の人生」(文春新書)でした。キャッチフレーズは「「成功」「出世」「自己実現」などくだらない!」・・・でした。初版:2014年8月20日。


ただ、本を読んでみると、確かこのような過激な表現はありませんでした、よりマイルドな表現をしています。本を売る場合、売れるためにと、出版社の都合で内容よりキツメな表現をとることが多いので、致し方ありませんが。


この本は、自叙伝、評論、人生訓がないまぜに取り上げられます。著者は、1930年、京都に生まれ、一時期熊本に移転し、また満州の大連に家族ごと渡り、その時期に文学に目覚めますが、日本が敗戦したあとは、物品をお金に換え、細々と生きていくよりなく(売り食い)、ほうほうの体で熊本に舞い戻ります。大連で青春時代を送ったため、日本については「異邦人」であると自己分析されています。日本では法政大学社会学部を卒業し、そして、糊口をつなぐためいろいろな職を転々としますが、河合塾福岡校で講師を25年ほど続けていました。現在、評論家です。


評論については、1章を割いて、江戸時代の実相とはなにか、と論じています。その江戸時代は、一般に思われるほど抑圧的ではなく、百姓一揆も、「生きるか死ぬか」の闘争ではなく、「条件闘争」であったと論じています。また、この時代の徒弟制度は、今の世にも生きている(ないし、べきだ)としています。


さて、最後の人生訓についてですが「第6章、無名のままに生きたい」に記されています。私は一般の「人生訓」の論理は嫌いです。たとえば「サラリーマンとして成功するための、これだけは知っておきたいお話:自己啓発セミナーのようなものも含むだろうと思いますが」のように、即実現できるように見える・安手な論理にあふれた、愚劣な本だからです。まあ、明治大学教授の齋藤孝さんの夥しい著作群がそんな本の代表格だと思っていますがね。


参考過去ログ

http://d.hatena.ne.jp/iirei/20061028#12921663684

 :齋藤孝の「天才論」に欠けているもの

http://d.hatena.ne.jp/iirei/20130424#1366769248

  :齋藤孝の限界・「人はなぜ存在するのか」(書評)


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渡辺さんの論理は明解です。有名人になること、これに憧れる人も多いですが、有名人になるのは、疲れるだけだ、とします。以下はこの本を読んでいて、もっとも印象に残った一節です。

いま言われている「自己実現」というのは、何のことはない、社会的地位や名声を得ること、つまり成功すること、出世することをそう言っているので、人々を虚しい自己顕示競争に駆り立てるだけです。「自分の人生の主人になる」というのは、これとは似て非なるものです。無名であっても平凡であっても、というより、むしろそうやって「有名になる」ことに囚われないほうが、自分の人生の主人たりうるのです。

                    160P


こんな一節もあります。

出世など、自分から求めるものではない、ということ、すべての不幸は、出世しようと思うところから始まるといってもいい。

                    149P


いわゆる人生訓の一般的傾向と違い、出世という上昇気質を肯定するのではなく、むしろ渡辺さんは「下降」を重視するのです。一般的な出世街道を歩まなかった私にとっても、頷ける論説です。



今日のひと言:でも、そこそこは有名な渡辺京二さん、こそばゆいでしょうね。本人はぺンネームを使えばよかったけど、勢い、本名をつかうハメになったのですって。


無名の人生 (文春新書)

無名の人生 (文春新書)

「菜根譚」が教えてくれた 一度きりの人生をまっとうするコツ100

「菜根譚」が教えてくれた 一度きりの人生をまっとうするコツ100





今日の料理


@カレイの香味ペースト煮



弟作。カレイを「香味ペースト」(「味の素」製)煮てみました。いつものカレイ料理の目先が変わって面白かったです。

 (2016.02.17)



@牛肉のネギ・キャベツ炒め



牛細切れ肉をネギ・キャベツと炒めました。+エバラ焼肉のタレ。

 (2016.02.19)



@登利平(とりへい)の鳥めし




機会があって、上州名物のこの弁当を買ってきました。鶏胸肉が一面ご飯を覆っていて、味付けが絶妙でした。また買いに行こうかな。竹弁当で710円です。

 (2016.02.20)



@鶏ムネ肉のマリネ


ムネ肉を薄めに切り、フライパンで焼き、酢・梅サワー漬け・醤油・ナツメグで味付けしました。なかなか美味。

 (2016.02.21)





今日の詩


@不倫議員


不倫が発覚した
自民党衆議院議員
宮崎謙介――
「介」の字が
ファルス:phallus」に見える。
――名は体を表す。

 (2016.02.19)