虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

ブレイク:スペルと文法がいい加減だが美しい詩

イギリスのロマン派詩人、ウィリアム・ブレイク(William Blake)は、極めて美しい詩を書きます。とくに有名なのが「The Tyger」という詩です。原文と、私による訳の、最終の2連を挙げます。


The Tyger

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When the stars threw down their spears,
And water‘d heaven with their tears,
Did he smile his work to see
Did he who made the Lamb make thee?


Tyger!Tyger! burning bright 
In the forests of the night,
What immortal hand or eye,
Dare frame thy fearful symmetry?


 原詩は文語体であり、かなり難解ですが、「生命」の持つ神秘さを描いていると思います。なお、この詩は私が大学教養課程時代に英語の授業で教えられたものですが、symmetry(シンメトリー)という単語はシンメトライと読むのがいいと教えられました。確かに、こう読
むと、英語だけども発音の中に「トラ」という言葉が出てきますし、eyeと韻を踏みます。

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(対訳)    虎     ウィリアム・ブレイク


星星がその光の槍を投げたとき
そしてその涙で天を洗ったとき
創造主はその仕事(作り上げた虎)を見て微笑んだか?
羊を作ったその同じ人が?


虎よ!虎よ! 夜の森の中
煌煌と燃え、
どんな不滅の手と目が
お前の恐るべきシンメトライを作ったのか?


  ここで言う「虎」は、実際の虎を勿論示しますが、「善悪どちらにもなる知性」も暗示すると授業で言われました。確かに、深い闇のなか煌煌と燃える虎の皮毛は、知性も暗示するような気がします。さあ、いかがだったですか?なお、翻訳時、創造主と虎の区別がつかない場合が多々ありましたが、あまり気にしないことにします。


以上の記述は、以前取り上げていて、下のブログに完訳を載せています。

http://d.hatena.ne.jp/iirei/20070322#1174508027

:THE  TYGER(手を加えて再録):感想文の一部手直しをしています


この詩の場合、本来「The Tiger」と綴るところ、「The Tyger」としていて、意識的に綴りを変えたのだろうか、との感想を持ちます。このようなスペルの無視・文法無視の例はほかにも多数あり、彼の代表的な詩をもうひとつ挙げてみましょう。



Infant Joy


“I have no name:
“I am but two days old.―”
What shall I call thee?
“I happy am
“Joy is my name”
Sweet joy befall thee!


Pretty Joy!
Sweet joy but two days old.,
Sweet joy I call thee:
Thou dost smile,
I sing the while
Sweet joy befall thee!



(対訳)幼な子の幸せ


「ぼくには名前がない」
「たった生後2日だ」
お前をなんと呼んだらいい?
「幸せだ、ぼくは。」
「幸せこそぼくの名前だ」
甘い幸せがお前に降り注ぐように!


可愛い幸せよ!
2日間だけの甘い幸せ
甘い幸せとお前を呼ぼう:
お前は微笑む、
その時私は歌う、
甘い幸せがお前に降り注ぐように!




ブレイクは、幼な子を讃える詩をいくつも書いていますが、この詩は代表的なものです。注意すべきは、原詩1連4行目に書いている「I happy am」でしょう。これは英語の言葉の配列の原則を無視しています。普通なら「I am happy」と書くはずですが、こう書くと、不思議な躍動感、また幼の子の幸せさが、ストレートに感じられるのです。この詩も私による翻訳です。


今日のひと言:今回参考にしたのは、大学の教養過程の時、授業で習った「ロマン派詩選:研究社小英文叢書189」です。なお、ブレイクの生没年は1757−1827で、フランス象徴詩の開祖、ボードレールが1821−1867で、一世代ブレイクのほうが年長です。でも、ブレイクはロマン派というより象徴派詩人とも言えそうです。ゲーテが1749−1832ですから、ブレイクとゲーテは同時代の人と言えるでしょう。また、ブレイクは生前、詩人として認識されておらず、学校教育を受けるかわりに、版画家のもとに弟子入りし、そこで教育されました。そのため、版画家として細々と生活していたのです。



対訳 ブレイク詩集―イギリス詩人選〈4〉 (岩波文庫)

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イギリス・ロマン派詩人たちの素顔

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今日の料理


@鶏モモ肉の蒸焼き




天板を敷き、上下をアルミホイルで覆ったオーブントースターで鶏モモ肉を焼きました。シーズニングはクレイジーソルト。素朴だけど、良い味でした。

 (2016.01.13)



@豚ソテー・辛子餡かけ



弟作。ナツメグと塩をしてソテーした豚肉に、昆布だし・辛子・片栗粉を加熱した餡を乗せました。


 (2016.01.15)



@ちぢみ法蓮草のお浸し


寒い時期、霜にあたった法蓮草は、甘味をまといますが、とくにちぢれたものは別格の味を持ちます。法蓮草でもっとも美味しいのは、赤い茎ですが、このような赤い部分を持つのは「アカザ科」植物に顕著です。ビーツ、スイスチャードなどもそうですね。

 (2016.01.16)



@ブリの照り焼き




弟作。砂糖と醤油のタレに漬け、オーブントースターで焼きました。オーソドックスだけど美味しい一品です。

 (2016.01.16)