「あるあしかの話」〜ちばてつやの珠玉作
漫画家、「ちばてつや」といえば、ジョー(「あしたのジョー」とか、松太郎(「のたり松太郎」)とか、型破りな登場人物があまた現れることで有名ですが、彼は本来少女漫画家としてスタートしたこともあり、この点、注意すべきだと思います。
そんな作品群の中から、今回は「あるあしかの話」を取り上げます。(講談社・ちばてつや漫画文庫 あるあしかの話=傑作短編集1:1977年2月 第1刷り発行)
野生のカッコイイあしか、「クロベエ」は、魚獲りでも、冒険でも目立ち、メスあしかたちの憧れの的でしたが、あるときトロール船の網に引っかかり、動物園に引き取られました。彼は、この環境に満足できず、暴れていたのですが、頭の良い彼のこと、この園内でうまくやる方法を探し当てます。(なお、クロベエは、園に入ったあと人間から付けられた名前です。)
それは、8の字泳法。数字の8のように曲芸的に泳ぐという見せ物です。これによって、クロベエは動物園にやってくる人たちを大いに楽しませ、人気ナンバーワンになります。
でも、それは本来、クロベエが望んでいた姿ではありませんでした。彼はやはり、大海原で悠々と泳ぎたいのですね。それに比べ、今ある自分はなんてみっともないのか、と考えるにいたり、また暴れだします。ほとほと困った動物園では、飼育係の曾根さんにクロベエの殺処分を命じます。
それはあまりに可哀想、ということで曾根さんは、クロベエをこっそり海に帰してあげるのですね。いざ放流してみると、クロベエは8の字泳法をします、曾根さんはクロベエが別れを惜しんでいるのか、と思い引き揚げますが、・・・実はクロベエは8の字しか泳げなくなっており、数日後放たれたのと同じ場所で死体となって発見されました。餓死でした・・・。
人間の世界と繋がるためには、8の字泳法は恰好の行動でしたが、それは野生動物としてのプライドをなくすことになる・・・これは、人間VS人間の現代社会にも当てはまるかも知れません。クロベエは皮肉なことに、人間社会に受け入れられるに充分な知能と運動神経を持っていましたが、それは「諸刃」の刃だったのです。自らに対しても、また他者に対しても。この短編マンガ(20ページ余り)、実に哲学的な作品で、傑作と言ってよいでしょう。
それで・・・この話を読み返してみて、思い浮かんだのが「歌を忘れたカナリア」という童謡です。西條八十(さいじょう・やそ)の作詞になるこの歌は、「歌を忘れてしまったカナリア」を、「無用の者としてカナリアを処分してしまいましょうか?」という繰り返される問いかけに対し、「かわいそうだ」との答えを何回か返すという作りの歌です。つくづく、カナリアの哀れさが引き立ちます。
クロベエの場合は、この歌とちょっと違いがあります。クロベエが忘れたのは「自然児としての行動」であり、かなりあのように飼われて披露する芸とは違うのですね。・・・というか、カナリアも飼われる代償として歌を歌っていたのなら、クロベエと同じになりますね。
手塚治虫がかつて(1970年代末)語ったところによると、自分がストーリー漫画を始めて以降、ほんとに新しいものを加えたのはちばてつやだけだ、と思っていると。また『あしたのジョー』の連載開始時点(1968年頃)で、梶原一騎が手塚治虫に並ぶ別格作家と語ったことがある。
作風は、体温のある描線の画風で1960年代には心理描写がうまいことで評価が高かった。また貧しい環境の自然児的な主人公が、微妙な摩擦を起こす(に出会う)話が多い。初期には少女マンガの名手とされ、少年マンガで人気を得てからそちらが主となり、のちに青年漫画に広げた。
中でも『あしたのジョー』は、当時の時代の象徴と受け取られていることも多い国民的に名が知られた代表作となっている。
16歳の高校生時に、新聞の三行広告で漫画家を募集しているのを見つけて日昭書店に応募。社長の石橋国松はちばにプロの生原稿を見せ、道具の使い方を教え、試しに描いてくる様に指示し、ちばは本格的な執筆を始める。20-30ページを執筆して持って行くと続きを執筆するように言われ、ちばはテストだと思い言われるままに続きを描き、何度か繰り返した後に最後には28ページで話を終わらせる指示を受ける。最後の原稿を持ち込むと、その場で当時の大卒初任給を超える1万2351円を原稿料として手渡された。このとき執筆された「復讐のせむし男」は1956年(昭和31年)に貸本として出版され、ちばは17歳で漫画家としてデビューする。
以降、高校に通いながら2年程貸本の執筆を続けた。
今日のひと言:ちばてつやさんは、独立不羈の男を描かせたら一級品です。以前は少女マンガを描いていたというのは、案外驚きですね。
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今日の料理
@身欠きニシンの八丁味噌煮
乾物である身欠きニシンは、青魚をなかなか食べられる機会のない、山の住民にとって、DHA、EPAの大切な補給源でした。栄養学的に根拠があったのですね。今回食べたのは半乾き状態のものでした。これを一枚3切れに切り、八丁味噌、醤油、とうきび糖、ショウガで味付けしました。
(2015.01.11)
@レンコンのクミン・赤シソ炒め
わが家ではよく炒めて食べるレンコンを、今回はクミン(カレーの香りの基盤であるセリ科のハーブのタネ)と、梅干しを漬けたときに添加する赤シソの葉を取っておいたもので炒めました。
(2015.01.11)
@ハルジオンのオイスターソース和え
ハルジオンとかヒメジオンは、本来観賞用に導入された植物ですが、今は雑草化しています。両者の違いはいくつかありますが、ハルジオンの場合、花期がヒメジオンより早く、茎が中空になっていて、ツボミが下向きにつくことです。利用上大差はありません。オイスターソースで和えるのは初めてでしたが、鮮烈な味になったと思います。もちろん、一度茹でて使います。
(2015.01.12)
@ハルノノゲシのマヨネーズ和え
姿(収穫後に撮影したので、不完全ですが、いわゆるロゼッタの形をしています。)
ザル一杯
調理後
ハルノノゲシは、早春を彩る野草で、苦い味をしています。同じキク科のチコリ、エンダイヴのような味覚と言ってもよいでしょう。「苦い」も味のうち、苦さを持つ野菜・野草をもっと食べましょう。なお、英語とフランス語では、チコリとエンダイヴの名称が異なり、英語でのチコリはフランス語ではエンダイヴです。なお、類似の野草にアキノノゲシというのがありますが、色が全体的に濃く、赤い線の入った葉脈をしているのがハルノノゲシです。
(2015.01.16)
今日の収穫
聖護院ダイコンが収穫できました。この冬、もっとも大きく育った株。さすがに蕪には見えないでしょう。
(2015.01.18)