「(株)貧困大国アメリカ」(書評):超格差社会アメリカの今
この本は「ルポ貧困大国アメリカ」で一躍名を挙げた「堤未果」さんの近著(2013年6月)です。豊富な話題で、現在の病める大国アメリカの現状と、アメリカの影響を受ける世界の諸国の例が頻繁に取り上げられます。
結論から言ってしまうと、市場原理主義、新自由主義といった資本主義社会の「病巣」がアメリカと、アメリカにかかわりを持つ国々を覆っているということです。アメリカの人たちは富める1%の人たちと、貧しい99%の人たちに二極分離していますが、前者はアメリカの資本投資家(株主)が、グローバル企業(多国籍企業)に投資し、その企業がもたらす利益を独占していることに問題があります。その際、企業は違法すれすれな行為をとるか、法律そのものを変えてしまいます。そのためにこそ、有力な政治家に献金を忘れないか、その企業の代表者がまるで回転ドアを回るように政治の中枢に居座ると言う現象も起きます。(例:イラク戦争を喜々として起こして、のちに無能だと証明され、国防長官を追われたラムズフェルトは、もと薬屋でした。)
この本では、具体的な産業・自治体などの話題が出てきますが、第一にアン・フェアだなと思うのは、養鶏農家に関する話題です。経済が「最適化・効率化」を要求するようになってくると、小規模な養鶏業では追いつけなくなり、「大手の養鶏業者」の傘下にはいることも多いのですが、一端契約を結ぶと、(これこそアン・フェアなのですが、契約書になかったはずの項目が挿入されていて)農家はまるで機械を扱うような工場で、ぎゅうぎゅう詰めで鶏たちを管理しなければならなくなります。そのため鶏のストレスも多く、相互に傷つけあうので、抗生物質を多量に鶏に投与しなければなりません。そのようにしてできた(安全な?)鶏を、アメリカ最王手のスーパー・「ウォルマート」などが店頭に並べるのです。ここには、効率のみが「神に近い」という妄執が見られます。
次に悪名高い「遺伝子組み換え作物」のモンサント社。GM種子で有名です。この会社の、ある意味先進的だった点は、一つの会社単独で、種子・農薬・肥料を提供するという発想がありました。強力な除草剤で畑の野草を根絶やしにし、いっぽう作物にはその除草剤への耐性を遺伝子レベルで植え付け、まるまる収穫する・・・さらに種子はすべてF1で、次世代の種子は収穫できず、毎年モンサント社から種子を買わなくてはなりません。この会社は、アメリカ当局と組んで、世界各地で悪さをしています。
イラク。イラクは本来小麦・大麦の在来品種が多く、生物多様性を保持していましたが、イラク戦争の過程で、種子保存センターがアメリカ軍によって破壊され、代わりにモンサント社の種子を使用させるようになりました。
インド。綿花の遺伝子組み換え作物・Bt綿花をモンサント社は「白い金塊」などと銘打って売り込み、気候条件がアメリカと違うため、たくさん枯らしてしまい、インドの綿花農家の27万人が自殺したとか。
アルゼンチン。以前IMF(国際通貨基金:アメリカのひも付き)に資金援助を受けたこともあり、あれよあれよという間に、GM作物の生産量が世界有数になってしまいました。
このように、効率優先の大企業が、政府とつるんで世界で悪さをするのですね。
ちょっと視点を変えて、教育の分野での大問題にブッシュ(Jr)前大統領が進めた教育改革・・・「落ちおこぼれゼロ法」について。この法律は、非効率な教え方をした教師を排除するなど、教育に「競争原理」を持ち込んだ点がおおいに問題です。この法律が施行されてから、むしろ落ちこぼれが激増し、公立校は存続できなくなり、かわって民間業者が切り盛りする「チャータースクール」が流行っているのだとか。
今日のひと言:富裕層のための政権だったブッシュ(Jr)のことをよく検証せずにオバマ大統領はブッシュ(Jr)の引いた路線を歩いている事例がよくあるようです。「落ちこぼれゼロ法」など。市場原理主義と新自由主義などの怖さを、オバマは解らないのかも知れません。
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今日の料理
@レンコンの「てりやきピザソース」炒め
弟作。レンコンの穴に「てりやきピザソース」とマヨネーズを詰め、小麦粉をまぶし、塩・胡椒、オリーブオイルで炒めたとのこと。なかなかの珍味。
(2014.10.09)
@カリフラワーのケチャップ和え
単に、これまでやっていない組合わせを選んだのですが、案外美味しくなりました。切り分けたカリフラワーを茹で、塩少々とケチャップで和えました。
(2014.10.11)
@塩麹漬けラム肉の炒めもの
弟作。塩麹に3時間ほど漬けたラムのスライス肉を、キャベツ、摺りショウガ、胡椒で炒めました。美味です。
(2014.10.11)
今日の詩
@デジャ・ヴュ(既視感)
私はジェラール・ド・ネルヴァルの詩「ファンテジー」
を読んでいる・・・
デジャ・ヴュを歌った詩。
その時家人が家事をこなしている。
そして私はこの状況で
デジャ・ヴュを感じた。
いつかどこかで体験した感じ。
ネルヴァルの詩のイメージ喚起力?
一抹の不安と共に。
(2014.10.13)
原詩:ファンテジー
ひとつの調べがあり、そのためになら私は捨ててもかまわない
ロッシーニの、モーツァルトの、ウェーバーのすべてでも。
それはたいそう古く、物憂く、傷ましく、
私にだけは、密かな魅惑の力を持つ調べ。
どうかしてそれを耳にする度に、
二百年も昔へと私の魂は若返る。
そこはルイ十三世の御世・・・私には見える気がする
入り日に黄色く染められて、緑の丘がひろがるのが。
次いで角角に石を組み込んだ煉瓦の城館、
赤味がかった色に輝く焼絵硝子の窓を持ち
巨大な庭園に囲まれて、一筋の小川が
その足もとをひたしては、花々のあいだを流れている。
それから一人の貴婦人が、高い窓辺に、
瞳は黒く、ブロンドの髪、昔の衣装を身にまとい・・・
おそらくはいつか別の世で
私がすでに会った人!――それでいまも私の思い出に浮かぶ人!
「フランス名詩選」(岩波文庫)より