ルナールの博物誌〜確かな観察眼
「にんじん」という実母によっていじめられる男の子の話で有名なフランスの作家・ジュール・ルナールには、「博物誌」という作品もあります。これは身近な動物たちの有様をリアルに切り取り、またその切断から人間一般の有り様を示す、優れた文学作品になっています。いくつか紹介しましょう。種本は「博物誌」:岸田国士(きしだ・くにお)訳 新潮文庫 また挿絵はボナールの手になります。
(注:「にんじん」は継子イジメの話ではなく実子イジメのお話だったとwhitewitchさんから指摘を受けました。そのように記述を変更しました。)
50P―51P「猫 Le Chat」
私のは鼠(ねずみ)を食わない。そんなことをするのがいやなのだ。つかまえても、それを玩具(おもちゃ)にするだけである。
遊び飽きると、命だけは助けてやる。それからどこかへ行って、尻尾で輪を作ってその中に坐り、拳固(げんこ)のように恰好よく引き締まった頭で、余念なく夢想に耽る。
しかし、爪傷がもとで、鼠は死んでしまう。
なんだか猫が一面で持つ、残酷さと冷徹さを表象しているようです。その状況を描き尽くして余りあります。簡素にして雄弁な文体と呼べるでしょう。
「孔雀 Le Paon」
今日こそ間違いなく結婚式が挙げられるだろう。
実は昨日のはずだった。彼は盛装をして待っていた。花嫁が来さえすればよかった。花嫁は来なかった。しかし、もうほどなく来るだろう。
意気揚々と、インドの王子然たる足どりで、彼はそのあたりを散歩する。新妻への数々の贈物は、ちゃんと自分の身につけて持っている。愛情がその彩色の輝きを増し、帽子の羽飾りは竪琴(たてごと)のように震えている。
花嫁は来ない。
彼は屋根の頂に登り、じっと太陽の照らす方を眺める。彼は魔性の叫びを投げかける――
――レオン!レオン!
こうして花嫁を呼ぶのである。何ものも姿を見せず、誰も返事をしない。庭の鳥たちももう慣れっこになっていて、頭をあげようともしない。そういつまで感心ばかりしてはいられないのだ。彼は中庭に降りて来る。誰を恨むというでもない。それほど自分の美しさを信じている。
結婚式は明日になるだろう。
そこで、残りの時間をどうして過ごそうかと、ただ、あてもなく踏段の方へ歩いていく。そして神殿の階段(きざはし)でも登るように、一段一段、正式の足どりで登って行く。
彼は裾長(すそなが)の上衣の裾を引上げる。その裾は、多くの眼が注がれたまま離れなくなってしまったために、なにさま重くなっている。
彼は、そこでもう一度、式の予行をやってみるのである。
43P―45P
動物の雄(人間も含めて)は雌に認められることを至上命題にしていて、さもなくば無意味な生き物なのです。ここで語られる孔雀の雄も、そんな因果をしょっているのですね。人ごととは思えないのです。
ちょっと長い引用になってしまったので、短いのを一つ。
「蛇 Le Serpent」
長すぎる。
106P−107P
短詩形文学みたいです。この一くさりは有名です。
確かに、ルナールの文章は短詩形文学で鍛えたかのような簡潔さと深さを併せ持っているかのようです。実際その通りで、彼の言葉には、箴言(しんげん)としてラ・ロシュフコーにも比せられるものが多いです。いくつか例を挙げましょう。
@1:人は自分が幸福であるだけでは満足しない。
他人が不幸でなければ気がすまないのだ
@2:自分も人間でありながら、人間が私を人間嫌いにする
@3:希望とは、輝く陽の光を受けながら出かけて、
雨にぬれながら帰ることである
http://sekihi.net/writers/1373 より
参考過去ログ:ラ・ロシュフコーの明察(モラリストとしての断章)
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20100818#1282129309
今日のひと言:ルナールは、その日記も日記文学の巨星としての評価を受けています。地味だけどスゴイ作家です。

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今日の料理
ウドを使って2品作りました。
ウドは、身と皮の両方が食べられますので、まず皮とゼンマイを軽く茹で、ゴマ油、塩、コチュジャンで和えました。かなり刺激的な風味。
(2014.04.25)
@ウドとひよこ豆のサラダ
ひよこ豆は、世界的にも栽培している地域が多く、ガルバンゾーとも呼ばれます。これと、しばらく酢に漬けたウドの中身を合わせ、マヨネーズ、オイスターソースでシーズニングしました。
(2014.04.25)
@フキの甘煮シナモン風味
わが家の庭でたくさん生えてきたフキ(蕗)。草木灰であく抜きしたあと、通常は醤油煮にしますが、今回は甘く、砂糖煮にしました。砂糖は甜菜糖(および甘塩少々)。煮終わる直前にシナモンの粉を散らします。なかなかの風味。モデルはハーブのアンジェリカ。茎を砂糖菓子にするハーブなのですね。
(2014.04.27)
今日の二句
登れるか?
我に挑める
歩道橋
もはや歳なのか、歩道橋の上り下りがキツイです。私の知り合いのある女性は、槍ヶ岳(3180m)にも平気で登っていましたが・・・
(2014.04.24)
農薬に
屈せぬ強さ
ランプ草
農薬を撒かれて他の野草が枯れても、案外トウダイグサ(灯台・草)は生き残るようです。有毒な植物であるだけに毒に強い?句にするには字余りなので、灯台草の灯台をランプと言い換えました。
(2014.04.24)