虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

ハイネの詩〜抒情詩の達人

私は以前、「ドイツの詩」と銘打ち、1ブログを書いたことがありますが、

 :http://d.hatena.ne.jp/iirei/20071201

リルケハイネについては取り上げませんでした。むしろそれだけこの2人の詩人には語るべきものがあるから、でしたが、今回はハイネを取り上げようと思います。


 ハイネと言って、すぐ思いつくのはシューベルト最期の歌曲集「白鳥の歌」に取り上げられたハイネの6編の詩です。この歌集は、1番目から7番目までがレルシュタープの凡庸な詩、8番目から13番目がハイネの詩、14曲目がザイドルの詩に曲をつけた「リートDas Lied」です。第13曲目の「影法師」(Der Doppelgänger)についても以前拙ブログで取り上げたことがあります。

  :http://d.hatena.ne.jp/iirei/20110525#1306322204


この曲はシューベルト歌曲の最高峰だと思えますが、作曲家の霊感を支えたハイネの詩は素晴らしいと思います。その歌詞の和訳:


ドッペルゲンゲル:影法師」

 静寂な夜 街も眠るころ
 あの家に私の「恋人」が住んでいた
 彼女が街を捨てて久しいが
 あの場所で家はそこにそのまま立っている

 そこに一人の男が佇み、高みを見上げている
 そしてあまりの激痛に手を捩じらせている
 私はぞっとした・・・月の光で見たその男
 その男の顔は私自身の顔だったのだ
 
 お前、ドッペルゲンゲルよ、青白い仲間よ
 お前は私の愛の苦しみを真似していたのか
 ここで私を苦しめぬいた痛みを
 幾晩も、幾晩も、このゆかりの場所で?



ハイネの詩は、難しい言葉ではなく、平易な言葉で書かれます。上に挙げた詩も事情は同じです。なに、難しい言葉を使えばそれだけ優れた詩になるものではありません。この訳は、私自身です。


また、ハイネはなにより抒情詩で知られますが、彼の個人的な体験を綴った詩は、それだけに留まらず、一般的な体験を語る詩にもなるのです。もちろん、失恋という痛手についても。


「夜は しずか」は、前出の「白鳥の歌」のなかで、ハイネ詩の最後に出てくる詩「影法師」(Der Doppelgänger)を訳者が言い換えたのかも知れませんが、とても平明で一般的な事象(?)を述べる詩になっていると思います。(なお、私が今読んでいるのは「世界の詩集3 ハイネ詩集:井上正蔵・訳・角川書店 1967年出版・・・かなり古い本です。)


以下、ハイネについての概略。(wiki



クリスティアン・ヨハン・ハインリヒ・ハイネ(Christian Johann Heinrich Heine, 1797年12月13日 -1856年2月17日)は、ドイツの詩人、作家、ジャーナリスト。デュッセルドルフユダヤ人の家庭に生まれる。名門ゲッティンゲン大学卒業、法学士号取得。 当初は商人、ついで法律家を目指したが、ボン大学でA・W・シュレーゲルの、ベルリン大学ヘーゲルの教えを受け作家として出発。『歌の本』などの抒情詩を初め、多くの旅行体験をもとにした紀行や文学評論、政治批評を執筆した。1831年からはパリに移住して多数の芸術家と交流を持ち、若き日のマルクスとも親交があった。

文学史的にはロマン派の流れに属するが、政治的動乱の時代を経験したことから批評精神に裏打ちされた風刺詩や時事詩も多く発表している。平易な表現によって書かれたハイネの詩は様々な作曲者から曲がつけられており、今日なお多くの人に親しまれている。



もう一編挙げておきましょう。(ただしイメージのみ)


むかしの夢

昔の恋人との誓いの夢
あなたがぼくの手を
噛んだ

誓いは良いが
噛まれていたいのは
僕だけさ



恋が燃え盛る状態での「愛咬:あいこう」、恋が無くなったときの冷めた感じがよく出ている詩だと思います。これも恋愛の一断片です。心にくい詩です。


今日のひと言:ハイネはヘーゲルマルクスと接した人だったので、革命詩、風刺詩もよく書いた詩人であるとwikiからの引用にも書いてありますが、今回はそれらの詩についてはオミットしました。恋愛の抒情詩ほどでもない、と思えるからです。



ドッペルゲンゲル絡みの過去ログ

 http://d.hatena.ne.jp/iirei/20100511#1273531790

ウィリアム・ウィルソン・・・ポーの恐怖小説(ドッペルゲンゲル


ハイネ詩集 (1969年)

ハイネ詩集 (1969年)

ハイネ詩集 (新潮文庫)

ハイネ詩集 (新潮文庫)




今日の料理


ラ・フランス




言わずと知れた洋梨の代表格。完熟するまで食べるのを待つのが鉄則で、私は3週間ほど前に買ってきました。完熟したラ・フランスは、果物の女王とも言われるようで、実際、ちょっとメロンを思わせるような芳香があります。ネットで調べると、ヘタの近く(肩)が耳たぶくらいの柔らかさになると食べごろということだったので、そうなった本日、食してみました。美味です。

 (2013.11.28)



@牡蠣の佃煮



毎冬の定番。牡蠣(カキ:貝)には、糖尿病に効果のある三価クロム、また亜鉛などのミネラルが豊富に含まれ、「海のミルク」とも呼ばれます。牡蠣は結構高価なので、100gあたり200円弱になってから買い求めています。これを醤油、甜菜糖、ショウガなど(あれば山椒の実、柚子なども入れます)で程よく煮詰めて出来上がり。大きさにもよりますが、大体夕飯で2,3個食べます。(私には糖尿病の気があります。)


関係過去ログ


http://d.hatena.ne.jp/iirei/20100316#1268735840

 :糖尿病を海産物(牡蠣、根昆布)で改善する

 (2013.11.29)


牡蠣礼讃 (文春新書)

牡蠣礼讃 (文春新書)



今日の一句


舞い踊る
帰る土なき
落ち葉たち


落ち葉にはそれなりに扱ってあげて、最後に土に返すのが自然の摂理かと思いますが、今はただ焼却されて廃棄物になるだけの運命。気の毒ですし、もったいない。

 (2013.11.28)