虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

ルドンと私(「黒」の魅力)

id:honmado)さんのブログで紹介されていたルドン、

http://d.hatena.ne.jp/honmado/20130611   :コラージュ


懐かしいので、図書館で一冊借りてきました。(もっと知りたいルドン 生涯と作品:山本敦子・著:東京美術)思えば、東京大学理科一類に入学した私は、しかし大学一年目に理科系に失望し、文科系・・・フランス文学科に文転することを考えました。そのとき、まあ、仏文科を目指すなら、ほぼ必須であった「フランス象徴詩」に大いに関心を持ちました。そしてそのころ、絵の世界でも象徴主義を謳っていたルドン(オディロン・ルドン:1840−1916)にも興味が向ったのかな、と思います。(この辺はうろ覚えです。)


「眼=気球・1878」(wiki より)


 私は当時開かれていたルドン展にいきました。1980年ころのことでしょう。そして、彼の描く「黒い」世界に魅了されました。彼は木炭を使って絵を描いたり、白黒のリトグラフを得意としていて、これらの作品を描いていたころのルドンは、まさに色彩のない絵を描いていたわけで、色彩は無視されていたのです。


 それにしても、この「黒」の雄弁なこと。一例として「笑う蜘蛛:わらうくも」を挙げてみます。「こんな蜘蛛なんて、あり得ない」と思うより「こんな蜘蛛って、いても良いね」と思えます。グロテスクであると同時に愛嬌も感じます。(前掲書25P)



 ただ、ちょうどピカソが陰鬱な「青の時代」から恋愛を経て「バラ色の時代」に移行したように、ルドンにも作画上の大変化が起きました。彼の場合も、結婚・妻の出産を契機として、色彩画家になったのです。ルドンはこのように語っています:


私は昔のように木炭画を描こうと思いましたが、だめでした。それは木炭と決裂したということです。じつをいえば、私たちが生きながらえるのは、ただただ新しい素材によってなのです。それ以来、私は色彩と結婚しました。
  (モーリス・ファーブル宛ての手紙・1902.7.21日付)

前掲書50P


そして、彼が色彩の画家になってからの一枚。「アポロンの戦車」。ギリシャ神話の世界を幻想的に描いています。(前掲書62P)闇を示す大蛇ピュトンと光を示すアポロン天馬たちの対比が見事です。



 それにしても、白黒の絵であれ、色彩の絵であれ、幻想的な作品であるのは、変わりません。先輩格のギュスターブ・モローともちょっとばかり違います。


 フランスの絵画の中での位置づけをwikiから。


ルドンは印象派の画家たちと同世代だが、その作風やテーマは大いに異なっている。光の効果を追求し、都会生活のひとこまやフランスのありふれた風景を主な画題とした印象派の画家たちに対し、ルドンはもっぱら幻想の世界を描き続けた。象徴派の文学者らと交友をもち、象徴主義に分類されることもあるが、19世紀後半から20世紀初頭にかけてという、西洋絵画の歴史のもっとも大きな転換点にあって、独自の道を歩んだ孤高の画家というのがふさわしい。


初の石版画集『夢の中で』の頃から当時の生理学や科学が投げかけていた疑問・問題意識である不確かな夢や無意識の世界に踏み込んだ作品を多く発表した。それらは断頭や目玉など、モノクロの版画であることもあって絶望感もある作品群だが、人間の顔をもった植物のようなものや動物のような顔で笑う蜘蛛など、どこか愛嬌のある作品も描いた。


鮮やかな色彩を用いるようになったのは50歳を過ぎてからのことで、油彩、水彩、パステルのいずれも色彩表現に優れているが、なかでも花瓶に挿した花を非常に鮮烈な色彩で描いた一連のパステル画が知られる。


日本国内では岐阜県美術館がルドン作品を数多く所蔵している。


今日のひと言:こう見てくると、私が大学時代の一時期、ルドンに馴染んだのも、故なきことではないようですね。


もっと知りたいルドン―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)

もっと知りたいルドン―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)

「画家」の誕生 〔ルドンと文学〕

「画家」の誕生 〔ルドンと文学〕


今日の料理


@紫菊花の和え物



買ってきたのは黄花の「阿呆宮」でも紫花の「もってのほか」でもない、ありふれた菊花ですが、値段は関係なくこの花、好きです。ガクからばらした菊花を、酢を少々入れたお湯で茹で、搾ったあと、醤油+梅サワー漬けで和えます。梅サワー漬けは「青梅:酢:氷砂糖=1:1:1」で混ぜて調整した調味料。だいたい三杯酢のうち、酸味と甘みをカバーします。

 (2013.11.16)




今日の一句


ツワブキ
日輪のごと
咲きみだる



ツワブキは、「艶のある」葉のフキであるという名称の由来があるようですが、フキのように春先ではなく、晩秋に黄色の花を咲かせます。日輪=太陽。

 (2013.11.16)




今日の詩


プチ・身障者体験


ここ2,3日、
私は病院めぐりをした:
月曜日には皮膚科。
左手の甲にできた痣が
悪性新生物でないかと
疑って。
結果はホクロらしく、
以後盛り上がったり
硬くならないかを
観察してほしいと言われた。


火曜日には整形外科。
日曜日に座椅子に躓き、
体の下部の右アバラと腹を
したたか痛めた。
右に体をひねると
ずきっとくるのだが
医師の診察ではアバラの
骨折もヒビ割れもなく、
モーラス(炎症止めの張り薬)を
もらった。


皮膚科の場合、最悪左手の切断、
整形外科の場合、体の自由度が
かなり減るといった恐れを抱いた。


これだけのことが、人によっては
命取りになることを
私は思った。


健常者と身障者の区別はあいまいだ。

  (2013.11.20)