虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト:色々な事物を取り上げます。

石原慎太郎と芥川賞

 数々の暴言と妄動で物議を醸し続ける石原慎太郎。今回のブログでは、芥川賞に関連した逸話を集めてみました。まずは、1956年に賞を受賞した際の選考委員の反対意見から。

石原慎太郎は、1956年に第34回芥川賞を受賞している。受賞作品は、「太陽の季節」。選考委員は、石川達三井上靖宇野浩二川端康成佐藤春夫瀧井孝作中村光夫丹羽文雄舟橋聖一の9名。異例というべき酷評がなされている。

(中略)

佐藤春夫の評:
僕は 『太陽の季節』 の反倫理的なのは必ずしも排撃はしないが、こういう風俗小説一般を文芸としてもっとも低級なものとみている上、この作者の鋭敏げな時代感覚もジャナリストや興行者の域を出ず、決して文学者の物ではないと思ったし、又この作品から作者の美的節度の欠如をみてもっとも嫌悪を禁じ得なかった。これでもかこれでもかと厚かましく押しつけ説き立てる作者の態度を卑しいと思ったものである。僕にとってなんの取り柄もない 『太陽の季節』 を人々が当選させるという多数決に対して・・・これに感心したとあっては恥ずかしいから僕は選者でもこの当選には連帯責任は負わない

(中略)

宇野浩二の評:
読み続けていく内に、私の気持ちは、次第に、索漠としてきた、味気なくなってきた。それは、この小説は、仮に新奇な作品としても、しいて意地悪く云えば、一種の下らぬ通俗小説であり、又、作者が、あたかも時代に(あるいはジャナリズム)に迎合するように、・・・ほしいままな 『性』 の遊戯を出来るだけ淫猥に露骨に、書きあらわしたりしているからである


佐藤春夫宇野浩二石原慎太郎評  弁護士 澤藤統一郎

http://www.news-pj.net/comment/2011/sawafuji-20110329.html (2011.03.29)

特に、佐藤春夫の評が的確です。「興行」・・・イベントをやる・・・都知事時代にごり押しで「東京マラソン」を決行したこと、国民は特に望んでいない「オリンピック招致」、いかにも押し付けがましい石原慎太郎の行いを見るにつけ、佐藤春夫はそこまで見抜いていたのか、と感嘆します。


次に、川上未映子の「乳と卵」(2008年上期)の受賞選考に対し、石原慎太郎が述べた反対意見について。

 川上氏に最も手厳しい評価をしたのは石原慎太郎氏のようです。参考までに石原氏の選評をご紹介します。
 受賞と決まってしまった川上未映子氏の『乳と卵』を私はまったく認めなかった。どこででもあり得る豊胸手術をわざわざ東京まで受けに来る女にとっての乳房のメタファとしての意味が伝わってこない。前回の作品の歯と同じだ。一人勝手な調子に乗ってのお喋りは私には不快でただ聞き苦しい。この作品を評価しなかったということで私が将来慙愧することは恐らくあり得まい。

http://tateoblog.cocolog-nifty.com/blog/2008/02/post_59b6.html

弁護士 清水建夫ブログ (2008.02.25)


実は、この作品については、私も石原慎太郎と同意見です。小説もどきとでも呼びたい作品で、過去ログで論評しています。

http://d.hatena.ne.jp/iirei/20080602#1212403626
「現代の樋口一葉」(川上未映子)は4コママンガと同等。


最後に昨年(2012年)石原慎太郎芥川賞選考委員を辞めた時の発言。

東京都の石原慎太郎知事が18日、95年から務めてきた芥川賞日本文学振興会主催)の選考委員について辞任する意向を表明した。理由について、都庁で報道陣に「全然刺激にならない」などと述べた。17日に発表された第146回芥川賞で、受賞者の田中慎弥さん(39)が石原知事の過去の発言に不快感を示したとみられる発言をして、反応が注目されていた。


 石原知事は17年間務めた選考委について「今回をもってやめる。全然刺激にならないから」と述べた。「太陽の季節」で第34回芥川賞(55年)を当時最年少の23歳3カ月で受賞。「いつか若い連中が出てきて足すくわれる、そういう戦慄(せんりつ)を期待したけど全然刺激にならない。自分の人生にとっての意味合いの問題だ」と理由を説明。さらに最近の文学作品について「物書きとしての緊張感を覚えさせてくれる作品がない」と批判した。

http://www.sponichi.co.jp/society/news/2012/01/19/kiji/K20120119002457910.html

まあ、最近の小説についての鋭敏なアンテナがなくなってしまったと、告白しているようなものだと思いますが。


今日のひと言:ハンパな小説家であり、ハンパな政治家でもある石原慎太郎、もう80過ぎていますが、その死に様はどのように晒すのか、その一点につき興味がありますね、私としては。案外幸せな死にっぷりだったりして・・・「憎まれっ子世にはばかる


芥川賞物語

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芥川賞を取らなかった名作たち (朝日新書)

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