虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

「ギャラリーフェイク」(贋作画廊)by細野不二彦

 マンガ家の細野不二彦さんは「鬼才」です。マンガ家には、作話のために夥しい(おびただしい)取材が必要になりますが、彼はそれを見事にやってのけ、「ギャラリーフェイク」という傑作マンガを描きました。


 この作品は、贋作とあらかじめ断って贋作(にせさく)の美術品を売買する画廊の主・フジタ(藤田玲司)と、中近東の王族の娘で難民化した助手のサラ(妙齢の女性)がいろいろな事件に巻き込まれるという話で、その過程で美術に関していかほどかの知識を、読者が仕入れることができるようになっています。Wikipediaでは

漫画は1992年より『ビッグコミックスピリッツ』(小学館)にて不定期で連載開始、2005年に連載終了。全32巻、文庫版全23巻。また、描き下ろし1話を載せた自選集が1冊出ている。第41回(平成7年度)小学館漫画賞受賞。

表向きは贋作・レプリカ専門のアートギャラリー『ギャラリーフェイク』を舞台に、オーナー藤田玲司が、様々な登場人物と絡みながら、時に世界を駆け巡りながら、絵画、彫刻などを通じて「アートとは何か?」を問いかける。主人公の魅力は、単なる守銭奴ではなく、アートへの奉仕者として清濁併せ呑む点にあるほか、美術・芸術・骨董の多方面に渡る薀蓄的描写も、読者の好奇心をそそる。助手サラ・ハリファとのほのかな恋の行方も気になるところであるほか、脇役・レギュラーキャラクターも多い。

印象的なお話は沢山ありますが、ここでは「あいはぎ」のお話「愛国者のトリック」を。某右翼の大物が雪舟水墨画(国宝級)を入手しますが、持ち主のフランス政府から返還の要請を受けます。そこはそれ、右翼の大物、素直に返還するつもりはありません。藤田にその意図の実行を依頼するのです。


そのとき、藤田が取った手法が「あいはぎ」。水墨画の紙をペロンと2枚に分離してしまう手です。確かに、和紙は繊維が数段にわたって積み重なっているので、その境で分離することは可能ですが、なんと、この水墨画、すでに一回「あいはぎ」をやられていて、さあ、どうなるか?

・・・といったお話です。ビッグコミック第2巻からのエピソードです。


こんな素敵なお話がコミックで32巻・・・私は、全部は読んでいません。でも素晴らしい作品集であろうことは想像できます。細野氏の情報もWikipediaより

細野 不二彦(ほその ふじひこ、1959年(昭和34年)12月2日- )は、日本の漫画家。東京都大田区出身。慶應義塾高等学校慶應義塾大学経済学部卒業


大学時代からスタジオぬえで活動。大学在学中の1979年、『マンガ少年』(朝日ソノラマ刊)掲載の「クラッシャージョウ」(高千穂遙の書き下ろしが原作)でデビュー。単発だったが好評のため継続した。


1980年に『恋のプリズナー』で『週刊少年サンデー』に初掲載。以降1980年代は同誌系誌を中心にコメディーを発表。この時期連載された『さすがの猿飛』、『どっきりドクター』、『Gu-Guガンモ』のうち、『〜猿飛』と『〜ガンモ』は当時フジテレビ系列でテレビアニメ化された。『どっきりドクター』も連載終了後かなり経った1998年にテレビアニメ化された。


1990年代以降は青年漫画に執筆の場を移し、『あどりぶシネ倶楽部』、『太郎』、『ギャラリーフェイク』などを発表。1991年には『ジャッジ』がOVA化、2005年には『ギャラリーフェイク』がテレビ東京系にてTVアニメ化されている。


また、1991年にはゲームソフト『ラグランジュポイント』(コナミ)、1997年には『グランドレッド』(バンプレスト)のキャラクターデザインも手がけた。
第41回(平成7年度)小学館漫画賞受賞(『ギャラリーフェイク』『太郎』)。

今日のひと言:鑑識眼のないひとにとっては、贋作も本物であろうと私は考えています。言ってみれば鑑賞の壁のようなものがあり、それを超えて見る眼がなければ、贋作も本物と事実上同じかと思うのです。絵画の鑑賞は、かなりハードな精神活動なのですね。中国の大芬村(だいふんむら)で量産される贋絵画、嬉嬉として買ってゆく欧米の観光客なども、このレベルですね。でも、「ゴッホの技巧は真似できても、ゴッホの精神は真似できない。」

参考過去ログ
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20071203
:中国・大芬村(だいふんむら)は、偽造絵画のメッカである


追加:本日のニュースで、複数枚あるムンクの「叫び」の一枚がオークションに懸けられ、日本円で96億円で落札されたとのこと。パステル画であるこの絵、仕上がりは有名なバージョンより雑で、よく96億もついたな、と思います。
 

ギャラリーフェイク 全23巻セット (小学館文庫)

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ギャラリーフェイク: 傷ついた「ひまわり」 (1) (ビッグコミックス)

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にせもの美術史―メトロポリタン美術館長と贋作者たちの頭脳戦 (朝日文庫)

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迷宮の美術史 名画贋作 (青春新書INTELLIGENCE)

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今日の詩

スクラップ アンド ビルト(scrap and built)


この家、
築8年目だったという。
日本人は物を大切にする
民族だと言われるが
それは怪しい。


イギリスでは
一旦建てた家は
まず、自分では壊さないという。


造っては壊し、
壊しては造る。


scrap and built、スクラップ アンド ビルト、
ああ、もったいない。

    (2012.05.02)