「うなぎ」(映画:今村昌平監督)を観て
今村昌平(1926−2006)監督、役所広司主演の映画で、1997年に公開されました。この作品は第50回カンヌ映画祭で、最高賞のパルムドールを獲得したものです。原作は吉村昭の「闇にひらめく・海馬」です。
作品の粗筋は、普通の会社員・山下が、妻に弁当を作ってもらい、夜釣りに出かけるところから始まります。ふと、釣りを早めに切り上げた山下が家にもどってくると、愛妻が不倫の真最中。しどけない声であえぐ妻を見て、殺意を抱いた山下は相手の男性に切りつけ、妻に襲い掛かり、メッタ刺しにします。山下はジャケットに返り血を一杯浴びたまま、警察に出頭します。「妻を殺しました」と。
それから8年、模範囚であった山下は仮釈放され、保護観察処分で、つつがなくこの期間を過ごしたら、晴れて社会復帰ができるというわけでした。その際、捕まえて飼育していた「うなぎ」を手渡されます。山下は服役中、理容師の資格を取っていたのでバーバーを開設して、うなぎを唯一の心の友として生きていこうと決心していました。「うなぎ」は、「なんでも聞いてくれるし、なによりウソはつかない」存在だったのです。
ただ、世の中、思いどおりには行ってくれません。「うなぎ」のエサを採りに行った際、服毒自殺を図った女性を助けることになり、以後この女性・・・桂子(清水美砂:演じる)は、なにかと山下の世話を焼きたがり、バーバーの手伝い、夜釣りの際の弁当つくりといろいろとしますが、山下は断じて弁当を受け取りませんでした。
そして桂子は、某会社の副社長であり、社長の子を妊娠していたのです!!桂子は会社から3000万円引き出したので、困った社長たちはバーバーに押しかけ、暴力沙汰になります。桂子の子は誰の子か?このとき山下は「それは俺の子だ!!」と宣言し、騒動にピリオドを打ちます。でも、騒動の当事者になったので、再び刑務所に収監されることになります。でも、桂子には「元気な子を産めよ」といいつつ収監されていきます。「うなぎ」は海に放流して。
でも、この山下の心境の変化はどうでしょう?桂子というトラブルメーカーを嫌っていたにも関わらず、この桂子への愛。これには、うなぎ漁の夜釣りに一緒に出かけた船大工との交流の中で、「うなぎ」が2000km旅して南海で産卵・受精し、再び日本に戻ってくるというお話しが大きく寄与していると思われます。
「なんでも聞いてくれるし、なによりウソはつかない」うなぎを、山下は自分の分身だと思っていたのでしょう。うなぎは、山下の壊れやすい自我そのものだったのでしょう。でも、水槽で飼う「うなぎ」は自由を剥奪された存在であり、そのようにうなぎを扱うことは、山下自身がみずから自分の自由を剥奪することになるでしょう。逆に、そのうなぎを海に放すという行為は、山下自身がみずからを解放するという意味があるのだと思います。このように考え、山下は、桂子と彼女が連れてくるトラブルも受け入れることにしたのでしょう。魂の昇華です。
今日のひと言:私は、映画や小説においては初物喰いではありません。新作でも、数年経ってから見ることが多いです。評価が定まってから見るという感じですね。なお、山下恵美子(山下の妻)を演じたのは、寺田千穂。いろっぽいベッドシーンをやっていました。
なお、この映画の下敷きになる小説を書いた吉村昭さんは、精力的にあらゆる分野に渡る作品を書いています。私が初めて彼の作品を読んだのは「戦艦武蔵」でした。武蔵の建造過程から沈没までの歴史を、冷静な目で見つめた作品でした。また自由律俳句の尾崎放哉の最期の8か月を描いた小説「海も暮れきる」もなかなかのタッチの作品で、過去ログで取り上げています。
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20110225#1298586577
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今日の四句
なんとまあ
畑占めたり
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最近の近くにある畑(夏は水田)の様子を見て。ナズナについては白一色の美、レンゲソウには混在の美を感じます。
(2012.04.15)
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トウダイグサは身近にある毒草。でも美しい植物です。枝が5つに分かれ、それぞれに3本の花が咲きます・・・美しいものには毒がある。
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