金子みすゞ:「詩を書くな」
金子みすゞ(wikiの写真より)→
私が行きつけの喫茶店で金子みすゞ(かねこ・みすず:1903−1930)の詩を知ったのは、かれこれ10年ほど前のことでした。中でも有名な詩(童謡)として、以下の詩には唸りました。でも、そのままにこれらの詩をアップするのは、著作権上難しいので、詩の要約を載せることにしました。
[[大漁]]
(要約)漁村でいわしがたくさん取れ、陸の人間たちがお祭り騒ぎであるけど、
海では何万匹ものいわしの弔いが行われるだろう。
物事の一面しか見ないひとには、なかなか着想できない詩ですね。大漁、人間の側では良い事柄だけれども、いわしの側では、大量の拉致被害ということにもなるわけで。次の詩も金子みすゞの特徴がよく出ていると思われます。
つもった雪
(要約)(屋根に積もった雪を見て)
三層の雪それぞれに辛いだろうな、と歌います。
たとえば中層の雪は空も地面も見られないで可哀そうである
・・・と歌います。
ちょっと思いつかない着眼点です。雪は雪、それ以外のなにものでもないと考える大人には浮かばない視点です。それを!!3つの者として別々に扱うとは・・・
金子みすゞの詩(童謡)には、万物斉同(ばんぶつさいどう)の視点が見られると私は思います。万物斉同とは・・・
はてなキーワードより。(←私が作成したものです)
道家の思想家・荘子(そうし)の中心的な概念。「全ての物を斉しく(ひとしく)同一と見なす」という概略であるが、この場合 民主主義の「平等」という概念とはまったく違う。自己が絶対者であるという意識をもって「全てのもの」に差別を設けないという境地を言うのである。「物」には「者」としての人間も含む。なお、その絶対者も万物のひとつに過ぎないという認識も重要である。「荘子:そうじ(書物としてはこう読む)・斉物論編」に詳しい。
金子みすゞは、「大漁」で「いわし」と「人間」を等置していますし、「つもった雪」では「上」・「中」・「下」の雪を等しく哀れんでいます。この万物斉同の視点は、すぐれた詩人の資質として重要なものであると私は考えています。てか、詩人にとって必須の概念だろうと思っています。また、平易な言葉遣いで作られた詩は、案外作るのは難しいものであり、みすゞの詩は年代を経ても読みやすいものです。
逆に言えば、難解な詩を書く人がいまでもごまんといますが、彼らの詩は「自己満足」の詩であろうと思われます。それがどんなに詩論に合致したものであっても。彼女は、特に西条八十にその詩才を高く評価され、彼の主宰する詩本になんども入選しています。同世代の若き詩人たちの憧れの的だったといいます。(なお、私は以前、伊藤若冲の画風も「万物斉同」の視点があると評したことがあります。)
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20110505 :伊藤若冲〜万物斉同の視点
さて、実生活上の金子みすゞ(本名・テル)ですが、Wikipediaによれば
山口県大津郡仙崎村(現・長門市仙崎)出身。郡立大津高等女学校(現・山口県立大津高等学校)卒業。父・庄之助は、妻(みすゞの母)の妹の嫁ぎ先である下関の書店・上山文英堂の清国営口支店長だったが、1906年(明治39年)、みすゞが3歳のときに清国で不慮の死をとげる。
劇団若草の創始者である上山雅輔(本名:上山正祐)は彼女の実弟であるが、幼くして母の妹(みすゞにとっては叔母)の嫁ぎ先である上山家に養子に出されている。叔母の死後、雅輔の養父・上山松蔵とみすゞの母が再婚したため、みすゞも下関に移り住む。同時に、みすゞと雅輔は実の姉弟でありつつ、義理の姉弟の関係となる。
1926年(大正15年)、叔父松蔵の経営する上山文英堂の番頭格の男性と結婚し、娘を1人もうける。しかし、夫は正祐との不仲から、次第に叔父に冷遇されるようになり、女性問題を原因に上山文英堂を追われることとなる。
みすゞは夫に従ったものの、自暴自棄になった夫の放蕩は収まらず、後ろめたさからかみすゞに詩の投稿、詩人仲間との文通を禁じた。さらにみすゞに淋病を感染させるなどした事から1930年(昭和5年)2月に正式な離婚が決まった(手続き上は成立していない)。みすゞは、せめて娘を手元で育てたいと要求し、夫も一度は受け入れたが、すぐに考えを翻し、娘の親権を強硬に要求。夫への抵抗心から同年3月10日、みすゞは、娘を自分の母に託すことを懇願する遺書を遺し服毒自殺、26年の短い生涯を閉じた。
天才詩人・金子みすゞであっても、ろくでなしの旦那との葛藤のすえ、服毒自殺しているのです。自分の不始末で起きた社会的不適応を棚に上げ、あまつさえ妻のみすゞに詩作を禁じるのですから。詩作を禁じられた詩人は、ケージ飼いの鳥も同じことで、彼女の精神のバランスが不調になるのも解る気がします。そのうえ、子どもの問題もからんで・・・飲んだ薬はカルチモン(睡眠薬)だったとか・・・
でも、金子みすゞは死後50年ほど埋もれた詩人でしたが、現代人にその良さが知られるのは、彼女にとっての冥福でしょう。
今日のひと言:今回読んだ本は「わたしと小鳥とすずと」(金子みすゞ童謡集) JULA出版局 (なお、すでに著作権が切れた金子の詩をおおっぴらに発表できないのは、金子の詩を再発見した彼らが今度は著作権を保持しているからです。)
なお、私は金子みすゞのテイストが、「いわさきちひろ」に似ているな、と思い、ネット上で検索してみましたが、実際似ていると思ったひともいるようで、みすゞの詩とちひろの絵を抱き合わせで展覧会を開いたグループもあるようです。
また、今年の東日本大震災の際、AC(日本広告機構)のコマーシャルでみすゞの詩「木霊(こだま)でしょうか?・・・いいえ、だれでも」という作品がとりあげられたことは、記憶に新しい人もいるでしょう。
今日の一句
時として
不条理なりし
著作権
(2011.10.12)

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