虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

戦争しか知らない子どもたち・アフガニスタンの悲劇

 オキザリス


 ここで、算数の問題です。


1) カラシニコフ2本とカラシニコフ3本を足すと、カラシニコフは何本になりますか?

2) あなたはロシア人を3人殺しました。私はロシア人を4人殺しました。さて全部で何人のロシア人が死んだでしょう?

・・・このような授業がアフガニスタンで行われています。おもえば1979年にアフガニスタンソ連軍が侵攻してから、アフガニスタンの国民はずっと戦いのなかにありました。ここに、カラシニコフとはソ連製の優れた自動小銃のことです。


 敵はソ連だけでなく、国内の聖戦士(ムジャヒディン)たちも領主化し、勝手に通行税をとるは、略奪・強姦をほしいままにするありさまでした。


 そんなアフガニスタンに救世主が現れました。1994年「タリバン」の登場です。イスラム神学を学んだ者を「タリブ」と呼び、その複数形が「タリバン」です。彼らはパキスタンの支援を受け、もともとパシュトゥーン人の勢力範囲であった南アフガニスタン支配下に置きます。彼らはムジャヒディンたちのような略奪・強姦などの野蛮な行為はせず、秩序の維持に前向きであったところから、民衆に受け入れられていきました。・・・そのタリバンも、「戦争しか知らない子どもたち」だったのです。1995年1月の段階で、12000人の神学生がカンダハルタリバンに参加し、訓練所で2ヶ月のコースを終了すると、一通りの武器の操作ができるようになるそうです。


 ところが、タリバンは、バーミヤンの仏教遺跡の破壊とか、オサマ・ビン・ラディンアルカイダを匿ったということで、2002年にアメリカの攻撃を受け、壊滅状態になりましたが、今また勢力を盛り返し、現カルザイ政権を脅かしているのですね。


 私が今回読んだ本は「カブール・ノート 戦争しか知らない子どもたち」(幻冬舎:2001.11.20発行)で著者の山本芳幸氏は国連難民高等弁務官UNHCR)カブール事務所に所属する人で、この本を書くことを薦めたのは作家の村上龍氏で、ミュージシャンの坂本龍一氏も推薦文を書いています。



 その山本さんについて流石だな、と思う点は、いわゆる「イスラム原理主義」という欧米諸国が貼ったレッテルがあるのなら、タリバン側からも欧米諸国について「人権原理主義」というのがあるだろう、と発言できるだろうとしていることです。ある文明が自分たちの発達過程を他の文明に押し付けるのはどんなものか、という視点です。なかなか優れた分析かと思うのです。また、最近聞いた情報では、アフガニスタンには鉱物資源が豊富にあると解ってきたらしく、その点でも「資源をもぎ取る」土壌として、アメリカがアフガニスタンを手放さないこともあるかと思います。そしてそれを保障する美名が「人権」ということになりますか。



 例えば、アフガニスタンにおける女性の社会的地位は、アメリカが思うほど低くはなく、ちゃんと社会の中で活躍する場があるという風です。羊毛から織物を作る過程でも、男女が仲良く分業しているという事実。ただ、その織物に目をつけた欧米資本が工場をつくるなどすると、その「麗しき」共同作業が壊滅してしまう・・・という具合です。



 また、アメリカの「人道支援」にもクエスチョンマークがつきます。空爆をする、その同じ飛行機で、支援物資を届けるというあり方について、アフガニスタン住民は複雑な思いを抱いているとのこと。



今日のひと言:私たち日本人はアメリカ=イギリスの情報ピラミッドの下にあり、ほかのチャンネルの情報にはなかなか接せられません。「人権原理主義」という山本氏の言葉は、現地で本質的な現象を見た上で発せられているので、説得力があると思います。でも、アフガニスタンはこれからどこへ行くのでしょうか?なお、この本の出版日時は2001年11月20日で、「9.11同時多発テロ」後ですが、この世界史的大事件については言及されていませんでした。この本の題名の下敷きになった曲・・・日本の若者が自虐的に歌った「戦争を知らない子どもたち」(北山修杉田二郎ジローズ)の能天気さをアフガンの人が知れば、唖然とするでしょうね。なお、山本芳幸さんが現在なにをされているかは解りません。

カブール・ノート 戦争しか知らない子どもたち

カブール・ノート 戦争しか知らない子どもたち


今日の一句


オキザリス
鴉伏せるや
漆黒の葉


オキザリスは、カタバミ科の観賞用植物。カタバミの仲間は葉にはたっぷりシュウ酸を含み、食べないほうがよい植物と言えるでしょう。シュウ酸の英語名オキザリック・アシド(oxalic acid)というのは、この植物から取られているのです。なお、「シュウ」とは日本名スカンポあるいはギシギシのことです。フランスではシュウ酸の含有量の少ないスカンポソレルと言い、サラダにします。
    (2011.06.06)

赤い花
寄り添い咲くか
松葉菊(まつばぎく)


松葉菊は、ツルナ科あるいはハマミズナ科の園芸植物で、日照りに強い。ツルナは野菜として食べられます。松葉菊は試したことがありませんが。
    (2011.06.07)



 そして一首


登りては
降り(くだり)囀る(さえずる)
雲雀(ひばり)かな
美空のもとで
自由自在に

  (2011.06.08)



分類不明な詩



トノサマガエルを
追うトカゲ
私の気配で素早く逃亡し。
じっとしていた
カエルも
私が近づくと
水田にポチャリと
飛び込む水の音。



みたまんまそのまんまの詩(?)です。最後の行は有名な某俳句のエンディングです。私はトノサマガエルの現物は小学校以来見ていませんでした。
    (2011.06.09)