“恋する日本語”は美しい
NHKの深夜番組の再放送として、2月上旬の夕刻オン・エアーされていた「恋する日本語」が印象に残ったので、その番組のソースとなった同名ショートショート集を図書館から借りて読みました。(小山薫堂:こやま・くんどう)著。
NHKの番組は、女優・余美貴子が「古い日本語」を売る商店「ことのは」の店主で、「北乃きい」など若い女性が訪れてくるという設定でした。ゲストは毎回替わります。
放送で特に印象に残っていたのは、「玉響の:たまゆらの」でしたので、その項を読んでみました。こうあります:
玉響:ほんの少しの間。
南イタリアの、海に面した
小さな町へひとりで旅に出た。
道に迷って困っていると、
一人の男の子が私に声をかけてきた。
彼は得意げな顔で、
細い路地裏の坂道を下り、
町の大通りまで私を案内してくれた。
そのお礼に、小さなボーイフレンドと
ちょっぴりデート。
心の傷が少しだけ、癒えた。
44P−45P
右ページに見出し語を書き、左ページに気の利いたショートショートが書いてあるのです。そのコンセプトは、
「何かの調べものをしていて辞書をめくっているとき、「刹那:せつな」という言葉を見つけました。
それは僕にとって、しばしば耳にするけれども、よく分からない言葉の一つでした。そして「意識の起こる時間」という意味があるのを知ったとき、それはつまり、人を好きになる瞬間なのだな、と思いました。そして、次の瞬間、ひらめいたのです。
日本語とは、恋をするために生まれた言語なのだ、と。」(あとがき)
もっとも、私がNHKの番組を見て感嘆したのは、この本文ではなく、万葉集に収められた歌の美しさに惹かれたのであって、ちょっと拍子抜けしました。NHKは、原作に少々手を加えているようですね。(それはこの事例の場合、大いに歓迎なのですが。)以下のように。
『たまゆらに昨日の夕、見しものを
今日の朝に恋ふべきものか』 万葉集:作者不詳
http://54820276.at.webry.info/201101/article_19.html
参照。
こうあります:
●玉響(たまゆら)・・・・・・・ほんの少しの間
たまゆらとは・・・玉が揺らぎ触れ合う音が微かなことから
ほんの少しの間という意味を現す「たまゆらは、一目惚れの初恋に歌い上げられたこの歌に
使われる言葉」
かつて、ある女性と、偶然「ふ」と、指の先が触れて、お互い感電したようにビクッと手を放して、その後、恋愛関係になったことがあるのですが、この「たまゆらの・・・」の和歌に通じるものを感じたのです。そのとき、私たちは確かに「玉」でした。そして、かすかな音を出したのです。
私は以前、アメバブログもやっていて、そのブロガーの中に200文字恋愛作文を書いているひとがいました。まあ、こういった出版の世界では、「早いもの勝ち」といったような風潮があるので、もしこのブロガーがその作品を発表していたら、優先権を獲得できたとも思われるのです。このような出版事情について、この作品の出版元である幻冬舎は、とても目が鋭いと思います。この本は、だいたい一話100字程度の字数で、新書版サイズですが空間が多い書き方になっています。私は15分で読了しました。
今日のひと言:ただ、この本、税抜き価格で1300円します。ページ数150、右ページが語句とその説明だけだとすれば、実際には半額の700円くらいで妥当な値段だと思われるのです。ショートショートというか、散文体の詩集であるとも考えられる本作品です。なお、昨今、流行するアイテムの共通点として、「〜〜する」という動詞を冠する商品、作品があります。「恋する天才科学者」(内田麻理香)、「食べるラー油」とか。この点も幻冬舎は見逃していませんね。
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