絵画への冒涜(ぼうとく)・・・クラナッハの絵から
私は、ルーカス・クラナッハ(クラーナハ)の絵に興味を持ち、図書館で借りたり、館内閲覧をしたりで、決して多くは残されていないクラナッハの絵を見てみました。
ベルトルト・ヒンツ著、Parco美術新書を借りました。図版は全て白黒で、ちょっとがっかりしましたが、「ホロフェルネスの首をもつユディット」(1530年、ブリューネヴァルト狩猟館)にはその出来の見事さに嘆息しました。
ホロフェルネスはイスラエルの敵国アッシリアの将軍で、ユダヤの寡婦・ユディット(ユディト)は、酌婦として彼に気に入られ、彼は一晩をともにするほど心を許しますが、ユディットの目的はホロフェルネスを殺害することだったのです。それで、性の営みのあと、ぐっすり眠りこけるホロフェルネスの首を掻き切り、性の喜び、敵を討ち取った喜びが一体となり、微笑んでいるのがこの絵でした。旧約聖書(外典)の一幕です。
・・・残酷?いえいえ、この話のように、なまめかしい女性が、素晴らしい男性の首を所望したり、手を下す話は結構多いのです。例えば、新約聖書に出てくる王女・サロメが洗礼者ヨハネの首を所望して、実際にヨハネの首を手にする話も有名で、この逸話はオスカー・ワイルドの「サロメ」(挿絵はアールヌーボーの旗手ビアズリー)でもとり上げられていますね。
首はとらないまでも、旧約聖書のなかの「サムソンとデリラ」でも、女性が男性を陥れる話であり、これらと同工異曲ですね。これらのお話には、広く類型性があるのです。まるでカマキリのメスがオスを食べちゃうような感じでしょうか。
さて、私はもっとクラナッハの絵を見たくて、図書館の禁帯出の本「ファブリ世界名画集73」(平凡社)を閲覧しました。さきほど挙げた絵は、この薄い画集の表紙を飾っていましたが、絵を一部しか掲載されていませんでした。そしてどこを省略していたかと言うと・・・ホロフェルネスの首の部分です!!
これには私は驚きと怒りを禁じ得ませんでした。首を携える残虐シーン・・・その表示を自主規制したのでしょうか。
それにしても、ユディットが光を放つのは、ホロフェルネスを討ったことにあり、その証拠たる彼の首を携えることが当然で、この主題には両者が欠かせません。それなのに、絵を全部掲載したら、青少年への悪影響がある、と考えるなら、この絵は画集にとり上げなければいいのです。この「ファブリ・・・」の解説者は、有名な美術評論家の東野芳明氏であり、彼もこのような絵画への冒涜に加わったのなら、これは由々しき事態です。
今日のひと言:残虐シーンを見せるか、隠すか・・・一部の若者に悪い影響があるかもしれませんが、なにもここまで大事な部分を削ることもないでしょうに、と思います。なお、クリムトにもユディトを描いた作品があります。↓これ。
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今日の一句
ぐぐっとな
渇きを癒す
古梅酒
1999年に漬け込み、11年間忘れていた梅酒を飲んでみたのです。なんだか中国酒のように力強く、美味でした。
(2010.12.21)