虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

陰謀渦巻く朝鮮戦争

 「キム・ソンジュ」という朝鮮人をご存知でしょうか?韓流スターではありませんよ。第二次世界大戦のころ、ソ連(現・ロシア)の大尉をやっていたひとで、彼はソ連軍に祭り上げられ、朝鮮のひとたちの架空の伝説の「百戦百勝の霊将」・金日成(キム・イルソン)として北朝鮮に凱旋するのです。ここに大きなすり替えが起こされているのです。言ってみれば詐欺です。


 ソ連としては、自分に従順な北の指導者がいればいいわけで、1945・8・15の日本からの開放以来、新たに北を植民地化するという意図もあったようで、現に北から「米」を徴収し、「米返せ」運動も起きています。ただソ連としては南朝鮮とはことを構えず、北朝鮮を衛星国家にする意図が濃厚だったようです。その加担行為を積極的にやったのが金日成というわけです。


 ところが金日成には野望がありました。朝鮮半島赤色革命です。1948年の秋か冬にかけてその考えを暖めていたようです。この時期、金日成ソ連詣でをしていますし、「南進」にむけての武器をリストアップしています。中国にもその旨伝えます。金日成いわく「夏季戦闘文化訓練」・・・この場合の「文化」とは「政治」のことです。この軍事演習が南進のきっかけになることもありますね。6月にはすべての砲弾に信管をつけ・・・そして朝鮮系中国人部隊・第6師団が1950年6月25日、戦端を開きます。そして3日でソウルを占領し、「勝った気分で」3日もソウルに居座ります。(金日成は首都占領で戦争が終わる、と思っていた節があります。)


 ところで、韓国の後見人であるアメリカはどうしていたかというと、北朝鮮におおくのスパイを放ち、北の動向・侵略意図を明瞭に知っていました。GHQの情報将校ウィロビー少将、マッカーサー元帥には既知のことでした。


 それではなぜ北の行動を見て見ぬ振りしていたのかというと、「反撃の口実」が出来ることと、大量に武器をつかう戦争で国の軍需産業および国を支える構造をもっているアメリカの内部事情ですね。金日成の陰謀はアメリカのより大きな陰謀に飲み込まれた格好です。そしてアメリカは朝鮮ほぼ全土に爆撃攻撃を行います。北・南の朝鮮人民を無差別で銃撃します。まあ、確かに空襲はアメリカの得意芸ですね・・・(バカのひとつ覚えのように。)太平洋戦争ベトナム戦争湾岸戦争イラク戦争でも、アメリカは空襲をしています。特に、イラク戦争の場合は敵役、サダム・フセインがいたからこそ、大量破壊兵器を持っている(と思われる)ことを口実に、大攻撃=軍需産業が儲かるという仕組みだったのですね。ただ、イラクには大量破壊兵器はなかったですが・・・


 ところで、金日成は、中隊長程度の経歴と視野、判断力しかなく、これを中国、ソ連が後押ししていたのですね。金日成は「アメリカが介入しないこと」「短期で戦争が終わること」「韓国の同志が決起すること」といった希望的観測に寄りかかり、アメリカ軍が仁川からの上陸作戦をしたので大慌て。もうすこしで半島から追い落とされるところで、中国の義勇兵のべ300万人の加勢で国として生き延びました。このこともあって「中共北朝鮮は、「血よりも濃い」盟約」で結ばれているという訳です。



今回のブログは「朝鮮戦争  金日成マッカーサーの陰謀」
萩原遼:文春文庫 1997 をもとに書きました。



この本には、アメリカ軍が北朝鮮から強制的に奪い取った「奪取文書」を一次資料とし、それを求めてアメリカの図書館に通いつめた研究の成果が挙げられています。朝鮮戦争について、「あれは韓国の侵略だった」という見解をいまでも北朝鮮の連中は崩しませんが、この著作によって、それは真っ赤なウソだというのがわかります。ちなみに萩原遼氏は大阪外国語大学朝鮮語学科の出、ハングルを読み解くという意味で、最適の人物です。


そして金日成は、チュチェ思想主体思想)といういわば金王朝を永遠のものにするかのような思想を、北の国民に押付けます。指導者は金一族から出なければならない、という内容が主であり、北の国民を愚民化するのに寄与しましたね。また、金日成は、宮廷政治のような陰謀が得意で、政敵は粛清されました。



今日のひと言:北朝鮮が行った「プロパガンダ」の檄文(げきぶん)は、それだけ読んでいると「もっともだな」という感想をもつことが多いですが、太古のプロパガンダといえば中国の「書経」が挙げられます。暴虐な殷の王・紂王(ちゅうおう)を周の王・武王が放伐する(討ち取る)といった話は有名ですが、ホントに「書経」に書いてあることは本当のことなのでしょうかね。おなじく夏の桀王(けつおう)を殷の湯王が放伐したはなしなども。いわゆる「桀紂・けっちゅう」のことですね。権力闘争に勝った側の一方的な歴史なのかもしれないですね。


朝鮮戦争―金日成とマッカーサーの陰謀 (文春文庫)

朝鮮戦争―金日成とマッカーサーの陰謀 (文春文庫)