虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

エコテロリスト・シーシェパード・・・日本が憎い?


 毎年のように、日本の南氷洋での調査捕鯨に「実力行使」して妨害活動を行なう、「エコテロリスト」集団・シーシェパード(Sea Shepherd Conservation Society)。これまでやってきたテロ活動は、1980年にノルウェイ捕鯨船を爆破・沈没させたり(これってすでに完全なるテロ)、捕鯨船に実弾を撃ったり、スクリューに絡ませて航行できなくするためロープを流したり、眼に入ると失明する恐れのある酪酸(らくさん)を投げつけたり、船に体当たりしたり・・・と、考えられうるほとんどのテロ行為をやってきました。


 このはた迷惑な組織を作ったのは、環境保護団体「グリーンピース」から「生ぬるい」との理由で1977年に脱退したカナダ人のポール・ワトソン。“自称”「ベジタリアン」。彼らは、本部をアメリカ合衆国に置き、欧米の国々の「反捕鯨」的感情を持つ人々にかれらの活動をアピールすることにより、寄付を募り、彼らのエコテロリズムを継続しています。


 2010年にも日本の調査捕鯨に、アディ・ギル号(この名前はアメリカの反捕鯨シンパであり、寄付者である実業家から採られた)で体当たりして邪魔したのですが、そのあとでシーシェパードが「今季の調査捕鯨の妨害は終了、今度は地中海でマグロ漁の妨害に行く」と声明を出したのですが、私はこの声明を聞いて、シーシェパードの連中の心根がよくわかりました。


 確かに、現在日本人が好む「クロマグロ」の生息数が少なくなっている可能性があり、それで国際会議が行なわれたのですが、それはそれとして、日本が地中海でマグロ漁をしていることに異論のある欧米諸国があるにしても、いまだ禁止してはいません。シーシェパードの連中は「クロマグロ」をクジラに準じて、日本国の合法的な操業にまで妨害活動をしようとしているのです。


 思えば、日本という国は世界史的にユニークな国で、欧米文明が世界の至る所の国々を殖民地化したのに対し、自ら近代化に成功し、大国ロシアに日露戦争で勝利し、また、大平洋戦争で、アメリカ、イギリス、オランダ、オーストラリアなどと4年間も戦い、日本の意図はともかくとして、被殖民地の国民が「なんだ、欧米だって大したことないじゃないか」と気付き、1955年にインドネシアで開催されたバンドン会議(アジア・アフリカ会議)を経て、おおくの国が欧米諸国から独立していきました。


 この事実は、西欧諸国にとっては、じつに忌々しいことです。それで特にアングロ・サクソン系諸国とかオランダなどは、その口惜しさを、「日本人をあざ笑う」という隠微な感情で発散させているのだと言われます。現にオーストラリア、ニュージーランド、オランダなどはシーシェパードに好意的ですね。(なんだかプロテスタントの国が多いような・・・)シーシェパード自体、上述の声明を鑑みると、「日本が憎い」=「日本の漁業の狙い撃ち」というスタンスを取っていますね。この際、「クジラ」とか「マグロ」などはバッシングの口実であると思われます。シーシェパードの行為にひそかに喝采をする西欧人は多いことでしょう。

参考過去ログ:高山正之の視点
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20061211  


今日のひと言:日本人は、生き物の尊厳さに畏敬の念を持っていて、仕留めたクジラを、余すところなく利用してきました。マンガ「美味しんぼ」にこの捕鯨問題が取上げられた回があり、クジラのヒゲを文楽人形の操縦のヒモに使うほど、徹底していました。他の素材では代替できないとのこと。アメリカ合衆国が日本に黒船で来航したおり、クジラ漁のために寄港地を求めてきたのは有名ですが、かれらはクジラから「鯨油」を取ったら、あとは捨ててしまうような利用法をしていました。欧米流ではクジラも成仏できないでしょうね。

http://kariyatetsu.com/nikki/943.php  :雁屋哲のブログ(美味しんぼ・原作者):「「シーシェパード」」
なお、4月30日、海上保安庁シーシェパードのドン、ポール・ワトソンをテロ行為の廉でICPOに逮捕状を出したそうです。


エコ・テロリズム―過激化する環境運動とアメリカの内なるテロ (新書y)

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闘え!くじら人―捕鯨問題でわかる国際社会

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