強力伝(ごうりきでん)・・・新田次郎の世界
小宮正作→
ここに言う「強力(ごうりき)」とは、高い山岳の上まで、重い荷物を運ぶ人のことを指します。
私は小学校低学年の頃、週刊少年マガジン(だったか)に掲載されていたマンガの絵柄がとても印象に残っています。「強力伝」で検索すると「山岳マンガ」というジャンルを並べ立てたサイトに行き着き、この作品が、原作:新田次郎、作画:池上遼一のものであることがわかりました。
作家の新田次郎氏は「国家の品格」で一躍一般に有名になった御茶ノ水女子大学数学科教授・藤原正彦氏の実父です。池上遼一さんは、原作つきで精緻な画面の劇画を描くことに定評があるのですが、そのリアルな画面作りで、少年の私が見て、印象に残り続けたという訳です。(池上遼一さんの代表作は「男組」です。原作者は、後に「美味しんぼ」で有名になった雁屋哲さんです。)
さて、本題に入りましょう。昭和16年、富士山麓の名強力、小宮正作は、とんでもない強力仕事を引き受けます。白馬岳山頂に「風景指示盤」という重い石を運び上げるという難事業です。
その石は、50貫近くある花崗岩2個。一貫はだいたい3.75kgだから、188kgということになりますね。巨体の力士一人分よりやや重いくらいの重量です。本人の体重は19貫=71kgなのだから、体重の2.6倍の石を運び上げるという難題です。しかも、ガタガタで登り、下りを繰り返して登るのです。アクシデントもあまたあります。
ここで、50貫の重りを廻り、あるエピソードが語られます。一人の女性と三角関係になった太郎丸と二郎丸、50貫の荷物を持上げて勝った二郎丸の方が、その女性をGETするも、「腸が破れた肛門から出てしまい、死去する」というエピソードです。(これは池上さんのマンガにもでてきたエピソードです。)
それほど重い「石」なのです。
現地に出向いた小宮は、地元の強力・鹿野との葛藤の後、鹿野の持つ素晴らしい「背負子(しょいこ)」と、白馬地方に伝わる「4歯アイゼン」を譲り受け、巨大な仕事に挑むのです。物語は単純な構造だけども、山の持つ威厳さと恐ろしさを語って余りあります。小宮にも過酷な運命が待っているのか???
もし、図書館などで目にしたら、ご覧ください。
今日のひと言:私が読んだテクストは、「強力伝(Large Print Booksシリーズ):社会福祉法人 埼玉福祉会」です。底本は「強力伝・孤島」(新潮文庫)です。
現代なら、巨石と言えども、ヘリコプターなどで楽々運べるのでしょうが、当時はその手は使えず、強力の力と、さらには強力自身の命を捧げなければできない事業だったのだと理解されます。一世一代の名誉を賭けて、歴史に残る強力しごとをするというメンタリティ。なお、「強力伝」は、第34回・直木賞受賞作品ですよ。
また、新田次郎氏は、もと気象庁の役人で、もともと高山には縁があり、この「強力伝」も彼の山岳小説群のひとつであると言えます。この夏、公開されるのが「劔岳――点の記」であり、これももちろん新田次郎氏の小説がもとになっています。
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