「しあわせ」考・・・やまとことば その2(全4話)
双柿図 →
よく言われることですが、若者が自殺を遂行する際、「先立つ不幸をお許しください」と書くことがありますが、これは用法が誤っています。正しくは「先立つ不孝をお許しください」です。この場合、自殺する本人にとっては確かに「不幸」ですが、親から見ればこれはもっと重く「不孝」なことにあたるのです。
このように、「しあわせ」という言葉は奥が深いです。やまとことばでいうと「仕合せ:しあわせ」になります。広辞苑4版によると、意味は1)めぐりあわせ
2)なりゆき、始末 3)幸福、幸運 勿論この言葉に、幸という字も当てられる。
もし、恋人同士が相手になにかをしてあげ、その代わりにまたなにかをしてあげるという感じがこの「仕合せ」になるでしょうか。女性がよく使う言い回しに「私、しあわせになる」というのがありますが、それは、受動的に男に従うという意味ではなく、より主体的に互恵関係を結べるか、に掛かっているのだと思います。
ただ、自分ひとりが「しあわせ」になる、というスタンスを取る女性もいるでしょうが、それでは、自分をも不幸にすることになるかも知れません。男性を裏切って、ほかの男性に走るとき「ごめんね、私、しあわせになる」という利己的な決まり文句は、マンガ、小説に満ち溢れているではないですか。
一方、漢字でいう「幸」の意味を『学研:漢和大字典/藤堂明保』で調べてみると、驚愕の結果がでてきました。
「幸」は象形文字で、「手かせ」を意味した。「手かせ」をはめられる危機をうまく脱すること、また刑や型、報(仕返しの罰)、執(つかまえる)といった漢字と同系統。消極的な意味なのですね。手かせをはめられていないので「幸」だなんて。
漢字って、案外残虐な面を持っているんだね。
ちなみに「民」という漢字は、象形文字で「ひとみのない目を刺して目を見えなくすること、あるいは針で目を突いて目をふさぎ、奴隷にするという意味があります。
政治家がなれなれしく「国民諸君!!」と演説していたら、「国民」は怒るべきですね。
漢字の描く地獄のような世界観が「やまとことば」にはないから、好き。
なお、「幸」と書いて「さち」とよぶのもいいですね。この場合、幸運、海のさち、山のさち・・・といった感じで使います。幸子(さちこ)。
今日のひと言:日ごろ、意識しないでも、やまとことばは生きていると思います。そのたおやかさには感謝しなければならないでしょう。やまとことばは交際の潤滑油です。