薄田泣菫(1877−1945:本名・淳介)は、日本における象徴詩を担った詩人として有名です。
そこで、今回は彼の第5詩集「白羊宮」から、詩一編をピックアップして鑑賞してみようと思います。「白羊宮」とは、占星術ではほぼ「牡羊座」のことです。昔のひと(詩人)は、占星術も勉強していたのですね。 出典は「現代日本文学大系12」(筑摩書房)です。8人の詩人が併録されている、大部の本です。
さて、読んでみて思ったのですが、文語体による明治・大正時代の詩は、同じ日本語なのか、というほど読みにくいです。外国語だと思ったほうが良いです。また、興味の対象が隔たっている詩もあるので、現在でも普遍的なテーマ、すなわち恋愛を歌った詩を1つ挙げます。
くちづけ
今朝あけぼのの浦にして、
われこそ見つれ、面ほでり、
濃青(こあお)の瞳子、ひたひたの
み空と海の接吻を。
君や青空、われや海、
ああ酔心地、擁しめに
胸ぞわななく、さこそ、かの
か広き海も顫(ふる)ひしか。
これを私が現代語訳すると
今朝夜明けの海辺で
僕は見た、顔を紅潮させた
濃く青い君の瞳、たっぷり濡れた
空と海のキスを。
君は青空、僕は海、
ああ、なんて気持ちよい酔いごごち
君を抱きしめると胸が振るえ、
だから、あの広い海も震えるんだよ。
結構いけてる詩だと思いませんか?なんともみずみずしい浜辺の恋。なにやらフルーティな出会い。異質なもの同士の出会い(この場合、海と空および僕と君)・・・ボードレールの詩論・万物照応の原理が垣間見えます。「万物照応」の理論は、ボードレールの「悪の華:あくのはな」で展開されている詩論で、「照応:コレスポンダンス」という詩で宣言されています。万物がそれなりに固有の存在であると同時に、お互いを認知しあう・・・と言った世界観です。・・・あ、こう書いてきて思ったのですが、「万物照応」って、「アニミズム」に非常に似ていますね。 そうそう、私は以前のブログで以下のように書きました。
万物照応こそが、世界に並ぶものの希な、フランス象徴詩の母体となったのです。私という「内宇宙」と世界という「外宇宙」が相互に呼応しあうという出合い、その神秘を解き明かすことに、フランス象徴派の詩人は精力を注ぎました。そこには、「詩の音楽化」という試みもなされています。
以下、関連ブログ。
マラルメとヴァレリー 海に寄せる師弟の詩:http://d.hatena.ne.jp/iirei/20071022
ボードレールがフランス象徴詩の祖:http://d.hatena.ne.jp/iirei/20071027
今日のひと言:小説家にくらべると、明治・大正期の詩人は知名度が低いようです。でも、それは、日本人が、小説は理解できても詩を理解できる感性をあまり持っていないからだと思います。なお、薄田泣菫は、従来の七五調にかわって八六語調などの新詩律も導入し、明治大正時代の詩壇の重鎮となります。1909年に詩作に決別して、以降はエッセイストとして活躍します。(コンサイス日本人名事典:三省堂を参照しました。)
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