虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

忍風カムイ外伝・MW・デスノート(比較論)(デスノート特集  その3)



3回に分けて、デスノート(:DEATH NOTE )と他の2作品を比較してみます。
その最終回。


L:エル(世界一の探偵)→
 

 忍風カムイ外伝・第5話の主役は「名張の五ツ」。彼は生きとし生けるもの全てに憐憫の情(れんびんのじょう:あわれみのこころ)を捧げる人でした。例えば、剣客が五ツに目を付けて、勝負を挑んだ際、試しに「ホタル」を両断しますが、五ツは剣客の技量より、殺されたホタルに憐憫の情を持つひとでした。(もちろん勝負は五ツの勝ち。剣客の命は奪わずに立ち去ります。)


 こんな場面もあります。手足が5本あるカエルを子供たちが苛めていたとき、飴でも買え、と小銭を渡し、手足5本のカエルを助けてやります。勘のいい人なら気付くかもしれませんが、五ツも3本目の手を持つ奇形だったのです。


 9分9厘勝っていても、挑戦者はそこで逆転されてしまう・・・3本目の手の威力です。


 その五ツとカムイは対戦しますが、必殺・変移抜刀霞切りを破られたカムイ、負けを認めますが、五ツはカムイの命を奪うことなく立ち去ります。――あとで、カムイは五ツの秘密をしることになるのですが。カムイを見逃した五ツにも、過酷な運命が待っているのです。抜け忍を見逃すということは、自分も抜け忍になってしまうからです。


 カムイも五ツも、殺したくて追っ手を殺しているのではありません。命の重さが重々解かっているのです。そして、忍風カムイ外伝は、「勧善懲悪」的なお話ではありません。ただ、最後の6話分はかなり特殊で、あまりに悪逆な敵に対して、正義の鉄槌をくだしていますから、「勧善懲悪」的ではあります。(これは今回シリーズ・初回のブログで書いたとおりです。)
 

 なお、「忍風カムイ外伝」の場合、差別用語がずいぶん出てきたり、奇形の話がこの回のように出てくるので、再放送はこれらのエピソードを含む回は放送されないことが多いそうです。あまりいい風潮とは思えません。言葉狩りのようでね。実際、名張の五ツのような人がいた場合、我々はどう表現するのでしょうかね。



さて、今度は「MW」。このお話は人の命が随分軽く描かれています。ただ、特殊な点は、「因果応報」とか「勧善懲悪」で話を締めくくるのではなく、極悪人の主人公が、放免されて社会に放たれるという点です。この結末、アンティクライマックス(期待はずれ)では決してありません。これこそが手塚治虫の用意したクライマックス(絶頂)なのです。


そして、「デスノートDEATH NOTE 」。漫画、アニメ、実写版、3とおりの結末がありますが、美青年である主人公・夜神月(やがみ・ライト)は「デスノート」を駆使した大量殺人者であることには論を俟たないでしょう。「顔」と「名前」がわかっており、その姓名を書き込むことで、その人は必ず死ぬというアイテム・デスノートは、ある意味無敵の、最悪の殺人兵器でしょう。この能力を持つもの=デスノートを使用するもの・を「キラ:killer」と呼んでいます。なお、ライトの父は警察庁幹部であり、警察内部のことも知りえる立場にライトはいました。そんな時、ライトは死神・リュークが意図的にこの世に落とした「デスノート」を拾うのです。


 「人を殺したい」からノートに書くのか、「書かれるのは犯罪者だからいいとか。」・・・私には夜神月のスタンスは前者だったのかな、と思えます。犯罪者だけではなく、自分に都合の悪い人も、そうとう数、夜神月は殺しているのですから。たとえば好敵手・探偵「L:エル」とその仲間たち。また、裁いても良いような犯罪者とは言え、それは殺す(殺したい)願望を実施しても良い訳ありません。それは殺人の口実にすぎないからです。


 そして、人の命は、デスノートの1ページより軽いと思います。実際、物語りの後半に出てくる、月の実質的な配下のキラ・魅上照は、現役の検察官であり、「削除!削除!!」と叫びながらデスノートに名を記入していくのです。確に人命は軽く取り扱われているようです。いらない文書をごみばこに捨てるようでね。



ただ、最後に「オバカな」松田刑事に射殺されることで、醜態をさらしながらリュークに「デスノート」に記名されて一生を終えた夜神月のお話、「デスノート」はいわゆる「勧善懲悪」の結末を持った案外解かり易いお話であると思います。これまで3回のブログから、3つの作品を類別してみます。

              命が軽いか   勧善懲悪的か
 デスノート         ○      ○
 MW             ○      ×
忍風カムイ外伝        ×      ×

○:YES    ×:NO

このようにして見ると、デスノートは案外プリミティヴなお話なのかも知れません。




今日のひと言:に、しても、「デスノート」に登場する「L:エル」、かっこ良かったな。
なお、デスノートを下界に落し、その後、このノートを月が拾ってから、死ぬまでの間、「無責任な」態度を崩さず、あたかも「サイコロ遊び」をするように「暇つぶし」していた死神「リューク」(Ryuuk:アニメ版の声優は中村獅童:似合っていたな)は本当の神です。夜神月がしばしば自称していたように「新世界の神になる」という言葉も、死神リュークから見れば、これもたわごとだったことでしょうね。多くの人間が、リュークがわざと落としたデスノートによって理不尽な死に直面し、夜神月も結局は同じ運命になってしまうのです。まあ、リュークからみれば「その面白さで」月(ライト)は格別ですけどね。
一方、情けないのは、死神「レム」。アマネミサというキラに恋してしまい、捜査を進めるLの本名をノートに書き込み、死神にあらざる行為のため、砂となって消えます。
死神の面汚しですが、月(ライト)は、このような死神の挙動を計算にいれて行動していました。地上最大の悪人でしたね、ライトは。「レム」もLも同時に消す計算。


 なお、法治社会において、何人(なんぴと)も、人(法人も含む)を裁くことは出来ません。出来るのは司法体系だけなのです。それがルール。それを無視して人を裁くものは、犯罪者です。
ただ、死神が実在するのなら、以上の議論は無効になりますね。


――ああ、戦争という特殊事情もありましたね、人間界には。あと、革命。



過去ログで取り上げたマンガ、アニメ関係ブログ(抜粋):
エヴァンゲリオンベルセルク
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20051211
封神演義
   http://d.hatena.ne.jp/iirei/20051231
課長バカ一代
   http://d.hatena.ne.jp/iirei/20060109
美味しんぼ
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20080110
バジリスク 
 http://d.hatena.ne.jp/iirei/20060826
クマのプー太郎
  http://d.hatena.ne.jp/iirei/20061105
サザエさん
  http://d.hatena.ne.jp/iirei/20061207
犬夜叉
    http://d.hatena.ne.jp/iirei/20061109
最上殿始末(手塚治虫
    http://d.hatena.ne.jp/iirei/20070323
ブラックジャックによろしく
    http://d.hatena.ne.jp/iirei/20070303
ピアノの森のだめカンタービレ
     http://d.hatena.ne.jp/iirei/20070711
ギャラクシー銀座
    http://d.hatena.ne.jp/iirei/20080117
いじめ――ひとりぼっちの戦い――
    http://d.hatena.ne.jp/iirei/20080317
 神社のススメ、フェティッシュ田中ユキ
    http://d.hatena.ne.jp/iirei/20080401
もやしもん
    http://d.hatena.ne.jp/iirei/20080421

静かなるドン
    http://d.hatena.ne.jp/iirei/20080605

忍風カムイ外伝
   http://d.hatena.ne.jp/iirei/20080913

MW
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20080918



死神の精度

死神の精度

死神くん 1 (集英社文庫(コミック版))

死神くん 1 (集英社文庫(コミック版))