虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

MW(むう)〜〜勧善懲悪のないドラマ(デスノート特集  その2)

 *MW(むう)〜〜勧善懲悪のないドラマ(デスノート特集  その2)



3回に分けて、デスノート(:DEATH NOTE )と他の2作品を比較してみます。
その2回目。


MW(ムウ) (1) (小学館文庫)

MW(ムウ) (1) (小学館文庫)


 この作品は、手塚治虫の夥しい作品群の中でも、出色な出来となっています。主人公は幼い可憐なころ、南西諸島の小島(沖ノ真船島)で、年長者に男色を教え込まれ、また同時に米軍の管理下にあった毒ガス「MW」を吸ってしまい、性格が捻じ曲がり、また寿命も短くなるといった状況下、「MW」を盗みとり、それを分子レベルで解析→大量散布して、おのれのあと少しの余命のうちに、道連れにと、世界を滅ぼそうとします。


 その男、結城美知夫は有名な歌舞伎役者・結城玉之丞の双子の弟で、兄がスターダムを上っていくのに対し、地味な銀行員を糧としていましたが、彼の裏の顔は、男女を問わない性欲の発揮を示していました。いわゆるバイ・セクシャルということです。そして、女性的な美男子で、ギリシャ神話における「ヘルマフロディトス」・両性具有者といった感を持ちます。Mは男(Man)、Wは女(Woman)に擬えられるという解説がありました。



 「MW」は上下2巻(小学館叢書)、結城美知夫は、大きな風船一つ分のMWを入手しますが、逃走する手段が必要でした。それは飛行機・・・そこに、立ちふさがる哲学者のような敏腕検事。結城美知夫の兄(結城玉之丞)の出番が待っていました。結城美知夫と同じコスチューム、同じ風船を持っていました。そして、寸分違わない顔立ち。そっくりなのは当然ですね。


  MWのすり替えが検事の目的でした。それは、美知夫が飛行機を乗っ取り、2台めの飛行機に乗り換え、美知夫が手を離せぬとき、幼児にMW入り風船を託すのですが、そのチャンスを狙った検事、ただの風船にすり替えるよう、兄に託すのです。そこまでは良かったのですが、兄弟2人で取っ組み合っていた際、兄弟のすり替えが起こってしまうのです。兄は死に、結城美知夫自身は生き残ります。悪の弟が生き残り、善の兄は死んでしまうのです。MWは確かに美知夫の手から離れましたが、命自体はなんともないということになったのです。



もちろん、兄と結城美知夫の区別はだれにもできないのですから、結城美知夫は無罪放免になります。兄と弟を捜査側が混同してしまったのです。もちろんそれには結城美知夫自身の演技が効いています。



 放免後、ニヤリと笑いながら町に消えていく結城美知夫。ここには勧善懲悪(かんぜんちょうあく:善者を助け、悪人を罰する)というドラマツルギーは成り立ちえません。彼はこれからどんな悪を企んでいるか・・・ゾクッとします。
 



今日のひと言:このドラマの場合、「命の重さ」はいかにも軽いです。手塚治虫の場合、このようなドライな作品も結構あるのです。短編「ペーター・キュルテンの記録」もそうですね。その全方位的なスタンスから、巨匠、あるいは天才と呼べるでありましょう。なお、MWが描かれたのは1977年(Wikipediaより)、地下鉄サリン事件が起こされる1995年より、18年も早く、手塚治虫のイマジネーションの偉大さが知れます。


きりひと讃歌 (1) (小学館文庫)

きりひと讃歌 (1) (小学館文庫)

火の山 (手塚治虫漫画全集)

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