斉藤綾子の性的世界
(2回に渡る「お下品」特集 その2)
ねっとりと吹き出る汗で、体中をこすり合いながら、高橋君は何度も私の中で嗚咽する。
私は体を鞭のように撓わせて、溶けてしまおうとする彼を吸い続ける。ぐったりと死んでしまったような体から、生臭い息を吐いて、私は彼の股間に唇を這わす。
「俺、もうダメだよ。ギブアップ!降参した」
「やだ、やだ、これちょうだい」
柔らかく舌の先で肉をくすぐり、**でマスをかき続ける。(**部はミスプリで読めず)
以上は斉藤綾子(1958−)の出世作である「愛より速く」(思想の科学社:1990年)から、「雨宿り」という作品のクライマックスシーンです。もちろん嗚咽(おえつ)とは射精のことであり、「私」の行為は男性の射精を促すために、女性が行う業(わざ)のことです。私がこの文章に接したのは大学時代で、たまにこの文章を思い出しては「マスターベーション:マス掻き:マス:センズリ:手淫:オナニー」していました。(それにしても、この行為、いろいろな名称がありますね。)たしか「宝島」に載っていた駄文の中から見つけたわけですが、最近まで、単行本になっているとは思いもしませんでした。その単行本「愛より速く」が「雨宿り」を掲載していることも知らなかったのです。この本にめぐり合えるとは、なんという偶然!あるいは必然?もしかしたら不運!?図書館に置いてあったのです。
斉藤綾子と言えば、週刊文春の「映画批評コーナー」のコラムニストの一人というのが最もおなじみですが、彼女の他の著作を知りたくて、あと2冊、図書館から借りてきました。「男を抱くということ:飛鳥新社」と「結核病棟物語:思想の科学社」です。
「結核病棟物語」は20代の初めに結核を患い、入院した際のノンフィクションっぽい小説です。おそらくノンフィクションでしょう。そんな状況下でも小説のネタにしてしまうというのは、作家根性ですね。さすがに性の大家、病院住まいとなっても男が外出の際迎えに来て、ドライブの途中でSEXするなんて、お手のものです。そして、その男は、斉藤綾子さんと不倫しているのです(妻子持ち)。この種の行為にはサトイ斉藤さん、別のひとの不倫には非寛容な気がします。
これらを読んでみて気付いたことですが、斉藤綾子さんにあるのは「性愛」ですね。肉と肉が絡み合う性愛にしか、意味を見出せない人のような気がします、彼女。だから、世の道徳とか徳目とかはないところに棲んでいるような印象を受けます。それはそれでいいか。また、いまでは差別用語である「ボケ老人:認知症の老人」「ドカチン:土木作業員」がじゃんじゃん飛び出すし、(SEXフレンドと思しき)登場人物について「モモンガ村野」などと呼んだりしています。なんだか、ギスギスした雰囲気を持った小説になっています。ここで思うに、斉藤さんは、「性愛」をも上から見下ろしていると。色恋沙汰の当事者でありながら、しかも当事者ではない、という客観的かつ冷徹な視点を持っているとでも言えましょうか。
また「男を抱くということ」は、斉藤綾子、南智子、亀山早苗の鼎談(3人による会談:「(鼎:かなえ)三本足の古代中国の煮炊き器具から取った名称です」)女3人、男について好き勝手なことを述べ合っています。アンカーマン(アンカーウーマン)は斉藤さんですが、その風景はさしずめ「サバト:魔女の宴会」です。この本の表紙が結構よく、「四角い」男を抱きしめる女の両腕がかかれています。(画像参照↑)
この鼎談のなかに、「男は自分が汚い存在だと思っている」というテーゼが語られていましが、実際の男は、これっぽっちも、自分が汚いとは思わないものです。少なくても私はそうですね。
今日のひと言:世の中に男性、女性とは違う性があって、3つの性が力を合わせなければ生殖できないとすると、世の中の様子も一変するかもしれないと言ったのは筒井康隆さんでした。
ちなみに、一人でセンズリすることを「大楽(一人で楽しむこと)」、二人でSEXを楽しむことを「天楽(二人で楽しむ)」と江戸時代の人は言っていました。大とか天とかを字解きしているのです。一とか二を人が貫く形になっています。粋(いき)ですねえ〜〜。(「江戸秘語辞典」より。)
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