虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

モラトリアムを欲しない若者たち 


私は、同じ東京大学工学部の後輩として、保手濱彰人(ほてはま・あきと)さんの活動をチェックしてきましたが、彼が起業家サークルTNK代表時代に立ち上げた「TESTEA」なる進学塾は、大変評判もよく、事業は拡大基調にあるとのこと。それは良いのですが、案ずるに、肝心な東京大学の工学部の勉学の方は、どうなっているのでしょうか:かなり悲惨な状況ではないかと思われます。
http://blog.livedoor.jp/venture_all_the_time/  : 保手濱さんのブログ。
(2008年6月24日のブログで、高校生に金融を教える話が掲載されています。これって、物作りが本分の工学部生が考えることではありません。また、彼らしく軽い乗りで、「金融をやったら、普通に働くのが、嫌になる」とか謳っています。まったく。)


 ところで、私が大学生のころ、慶応大学の小此木啓吾教授が、当時の大学生を称して、「モラトリアム時代の学生たち」と呼んでいました。このモラトリアム(moratorium)という言葉を広辞苑(第4版)で引くと
1) 債務者の破綻が経済界に大打撃を与えることが予想される非常緊急の場合、法令を以って特に一定期間、債務の履行を延期する措置。支払い猶予、支払い延期。
2) 差し当たり実験を中止すること。棚上げにすること。多く、核実験の一方的停止や原子力発電所の設置禁止措置についていう。
3) 人間が成長して、なお社会的義務の遂行を猶予される期間。また、その猶予にとどまろうとする心理状態。

今回は、特に、3)の意味で使っています。ちなみに、3)のような人を英語で
a  moratorium  man=a mentally− immature adult

精神的に未熟な大人といった意味になりますね。



さて、保手濱彰人さんは、自らモラトリアムを放棄したわけですが、私に関わる人の中にも、同じくモラトリアムを放棄した人がいます。私が家庭教師として派遣された一家の長男クン、高校の勉強をするよりアルバイトを熱心にやっていました。彼が言うには、中卒の彼女はもう働いているので、自分だけ勉強しているわけには行かない、といった乗りでした。勉強することはあくまで義務であり、それを放棄するのが良い、という訳でしょうか。・・・いや、そうではなく、勉強することは権利なのですよ。より広く世界を認識し、より強い立場に立てるアイテムなのです。マンガ・ドラゴン桜で、主人公の弁護士・桜木健二が、「頭のいい奴が世間のルールを決める。それだったらその仲間にならなきゃソンだ」、という発想をすることには、おおざっぱとは言え、幾分かの真理はあるでしょう。



 高校3年間、大学4(ないし6)年間の修養期間は伊達(だて)にあるのではありません。私なら、十分にそのモラトリアム期間を堪能しますが、皆さんはどうですか?ちなみに私は2回留年して、研究生もやり、都合7年で大学を後にしました。



今日のひと言:東大の場合、落第し続けると自然に除籍処分になりますが、なかにはツワモノもいて、10数年学生をつづけた人を知っています。ただ、このような状態になると、もう勉強するモチベーションがなく、いずれ退学することになるのです。



モラトリアム人間の時代 (中公文庫 M 167)

モラトリアム人間の時代 (中公文庫 M 167)