一十郎とお蘭さま・・・一人芝居のドラマ
*一十郎とお蘭さま・・・一人芝居のドラマ
以前、「コミック乱」に掲載されている「一十郎とお蘭さま」を取り上げましたが(高見まこ・絵)
(http://d.hatena.ne.jp/iirei/20080226 :コミック乱とコミック乱ツインズ)
、南條範夫の原作も読んでみましたので、その感想を書こうと思います。
村松藩士・欅一十郎(けやき・いちじゅうろう)は、剣の達人、その腕を見込まれて、ある重大な任務を与えられます。それは、明治維新の混乱のなか、佐幕だった(注:幕府を支持するという意味)藩の藩主・堀直賀の側室の「お蘭の方」とまだ幼い世継・千代丸の逃避行に従うことにありました。お蘭の方は、裕福な商家に生まれ、その美貌を買われて堀直賀の側室になったのです。
このお蘭の方に、通常の女性に対して持つのとはまた違った感情を持つに至っていた一十郎は、ある意味嬉嬉として一行に加わります。(女を知らない・童貞ではありませんでしたが。)道中、維新軍の兵士が「お蘭」を「慰みものにするため」差し出せ、と言ってきても、彼らを斬殺することで、産まれて初めて人に刃物を向けて殺人を行います。
一十郎は、藩主の命であるから、というより、この上なき忠誠心をもって、この母子に従います。でも、その生活も長くは続きません。
藩士で同僚の男が伊藤博文に取り入り、息子の千代丸を海外留学させる代わりに、「お蘭」は伊藤の妾になるのを承知します。これは一十郎の預かりしらぬところで行われた密談によって決まったことで、後にこの同僚はお蘭の方を侮蔑したため、この同僚を一十郎は斬る・・・殺人未遂で懲役10年ということになってしまいます。その間、お蘭は、幾多の著名人の愛妾になっていきます。また、欅は、出獄後、成人した千代丸に面会しますが、大変迷惑がられ、「手切れ金」をも遣わされ、以後来ないでね、と言われます。
最後のパパからお暇を貰って帰ってきたお蘭は、一十郎と再会し、これまでただの従者だと思っていた一十郎に「男」を見つけ、ついに2人でSEXする仲になります。「いつも二人は、同時に完全に果て、しばらくは身動きもしない。」ところがお蘭は、かつての愛人だった三条実安のもとへ行ってしまいます。・・・・一十郎は「単なる性的充足の道具」だったのです、お蘭からすれば。・・・・
まあ、ざっとこんなお話なのですが、この物語、不思議な点があります。「お蘭」も発言はするのですが、彼女の目線からの「地の文」が一行もないのです。作者の南條さんが意図的にそうしているように思えてなりません。「お蘭」は、意志を持たない人形で、そのことで一十郎を翻弄しているようにも思えてなりません。「地の文」は一十郎の心境を描いていても、お蘭の心境は語ってないように思われます。
たとえばこんなやり取り
堀直賀:「あ、そうか、そうだな。高田はそなたにとって言わば故郷のようなもの。何とかして高田まで脱がれれば、そこから先は、改めて生まれ故郷の大坂へ行くことも、さして困難ではあるまい」
お蘭:「はい。」
と答えたお蘭は、
お蘭:「でも、殿さまとお別れしては、わたくし、心細くて――」
(地の文) と呟くように言ったものの、心の底ではもう、高田へ、そして大坂へと決めていたようだった。
このように、彼女:お蘭の心の中は、本人に語らせず、「地の文」で大まかに規定してしまうので、そうとうに荒っぽい心理描写になってしまい、お蘭は操り人形のごとくで、まさしく一十郎の一人芝居という風味の作品になっているのです。欅一十郎以外の登場人物は、みな酷薄です。
今日のひと言:こんな、ある意味残酷なお話を、高見まこがどう調理するか、見ものですね。
今日のひと言2:この前書いた詩を一編。
豊かな食卓
フキとタケノコ
ともどもに
我が家の食卓
飾るぞ
嬉しき
この詩は今年4月に書いたものですが、昨日の食卓でもフキ、タケノコが登場しました。フキについては一回目の収穫後、刈り取ったので、2番芽です。タケノコは4月は孟宗竹、こんどは真竹を使いました。五蕗六筍(たしか)といい、5月のフキ、6月のタケノコは時期遅れだと言われますが、我が家の食卓のような例もあります。
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