虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

北欧神話とラグナロック(ラグナロク)

 このラグナロックラグナロク)という言葉は、ゲームマニアには周知かも知れません。このお話はTVゲームにもなっているそうですから。ヨーロッパに伝わる神話として、ギリシャ神話・ローマ神話と匹敵するけどそれほど有名ではないのが、この北欧神話です。そしてギリシャ神話とかローマ神話との違いは、北欧神話には、神々の滅亡が語られていることで、これを「ラグナロック(ラグナロク)」=「神々のたそがれ」と称するのです。


 では、両方の神話体系・ギリシャ神話(ローマ神話)と北欧神話の決定的な違いはどこにあるのでしょう。両神話体系における似たもの同士を登場させましょう。
 北欧神話では「ロキ」、ギリシャローマ神話では「ヘルメス/マーキュリー」。
どちらも「いたずらもの」の神さまであり、世を混乱に巻き込む神さまですから。ヘルメスは、生まれおちてすぐアポロンの牛を盗み、アポロンに叱られますが、ヘルメスは自分で発明した楽器をアポロンに献上して、免責されました。生まれたころからこの有様ですから、いろいろトラブルを起こします。でも、その臨機応変の才が評価され、ゼウスの使者という恒久的な役割を与えられます。神々のなかでアイデンティティーを確保されます。
 一方のロキは、自分の出身である巨人族と神々との間にあって、つねにアイデンティティーの危機にさらされています。北欧神話の神々の居所「アズガルド」に安住できるわけでもなく、主神オーディンとか戦神トールには煙たがられています。ただ、悪さをしても、神々に有益な品物を小人族に作らせ神々に献上することで、生かさず殺さずのスタンスを神々は取ります。
 ところで、ロキは3人(匹)の魔物を生み出します。フェンリル狼という巨大狼、ミッドガルド蛇(ヨルムンガルド蛇)という大蛇、ヘルという女。彼らは封印されていましたが、ラグナロックの際、ロキを助けるように働き、フェンリル狼はオーディンを丸呑みし、ミッドガルト蛇はトールと相打ちになり、ロキを含みほとんどの神々が死に絶えるというのです。・・・これが北欧神話のあらすじです。厄介者の扱いに成功したかしないかが、両神話体系の違いがあるようです。その後に再生される世界のエピソードもありますが、確かにこのラグナロックで「世界は終わる」のです。


 ところでラグナロックのときに起こる現象について
1) 太陽が巨大な狼に飲み込まれる
2) 大地は業火に焼き尽くされる
3) 大地は海中に没する


などがありますが、1)はスモッグ 2)は酸性雨(硫酸)による植物を一種の焼殺にかけること ないし原発メルトダウン 3)は地球温暖化による海面上昇、実質洪水を暗示しているとも解釈できます。われわれはラグナロックの時代に生きているのです。


    参考文献:ギリシャ神話―付・北欧神話山室静:現代教養文庫



今日のひと言:私は大学生のころ、この山室さんの著作を読んだのですが、悪神「ロキ」が大変印象に残ったものです。調和の取れた世界の神話が、「ギリシャ神話」「ローマ神話」であり、取れなかった世界の神話が「北欧神話」です。

なお、ゲルマン系の北欧神話として、以前話題にしたページ↓。
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20071206 :私はワーグナーが嫌いだ!


生と死の北欧神話

生と死の北欧神話

ギリシャ神話―付・北欧神話 (現代教養文庫)

ギリシャ神話―付・北欧神話 (現代教養文庫)