土地の文明(レヴュー:書評)
私は東京大学・都市工学科の出身で、環境問題を専攻していたので、環境破壊を推し進める立場の土木工学科や建築工学科を忌み嫌っていました。そんな立場の私の目を引いたのが本書です。2005年上梓。
「土地の文明・地形とデータで日本の都市の謎を解く」(PHP研究所発刊)。著者は竹村公太郎氏で、略歴には1970年東北大学工学部土木工学科修士修了。同年建設省入省。1999年河川局長。2002年国土交通省退官・・・とあり、バリバリの土木マンです。
この本の特徴は、土木技師の視点から地理を考える、という点に尽きると思います。
基盤的な都市施設から歴史上の出来事も推察できるというのです。
たとえば、ご老人にはおなじみの「忠臣蔵(ちゅうしんぐら)」、仇(かたき)の吉良上野介(きら・こうずけのすけ)を、幕府は保護していたように思えるが、吉良を、よりあだ討ちの容易な本所に移して、赤穂浪士の不穏な動きに目をつぶっていた節があるというのです。それは、地理的に説明できるのです。本所は江戸城からみれば川向こうの倉庫街で、閑散としていて、司直の手も届きません。
では、なぜ吉良家を徳川家が嫌っていたかといえば、徳川家が三河にいたときにさかのぼるのだそうです。八作川下流域は、開拓をめぐって両家がしのぎを削り、最終的には徳川家が勝ち、この地域の覇権を握ったとのこと。
これまで、「忠臣蔵」について、地面からの視点で解釈する立場はなかったので、竹村氏の洞察は新鮮なのだと思います。
このような見地から、日本の諸地域のなりたちが語られます。江戸(東京)、北海道、奈良、滋賀、新潟、大阪、神戸、広島、博多などです。(おまけに韓国・ソウルのお話もあります。)
ただ、反開発派の私から見て、やはり土木屋だなあ、と思われる視点があります。「交流軸」。これは交通の大動脈のことであり、人が行き交う結節点が「にぎわう」とのことです。滋賀県は、高速道路が通っているため、そのツボに乗っかっているので、現在でも県民一人あたりの製造業粗付加価値額が全国レベルで見ても最高だとのこと。人口増加率も同様。「にぎわい」があるのですね。また、交通のメインルートから外れているから、奈良県の旅館数は全国でも最低レベルである、とか。
そうすると、論理の行き着くところ、「高速道路が通っていること=地域の活性化が促進される」と捉えられると著者は考えていると思われますが、実際そうなのです。
ついこの前、韓国大統領に当選した李明博さんが行った事業、清渓川で、高速道をとっぱらったことについては、竹村さんが戸惑っていました。近代化に逆行する行為である、との感想をもらしていました。
「自動車の普及=近代化」というテーゼは、もはや時代遅れなのかも知れません。物流が多いことをよしとする考え方の竹村さんとは、私は立場が違います。「にぎわい」と言った言葉の意味についても見直しが必要でしょう。とは言え、読む価値のある一冊です。
今日のひと言:確かに、土木工学的視点は、社会基盤を作ることから、工学部の代表選手なのかも知れません。英語ではCivil Engineering(市民の工学)と呼ばれます。
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