*氷上の格闘技・カーリング
戦争スポーツ論3
カーリング(Curling)のふるさとはスコットランドです。イギリスは、現在4つの王国の連合体ですが、イングランドがアングロ・サクソン系の国であるのに対して、スコットランドはケルト人の国です。かなり激しい対立が存在しました。有名なやり取りがあります。辞書編纂者のサミュエル・ジョンソン(Samuel Johnson:1709−84)(イングランド)が「燕麦(Oats)は、イングランドでは馬が食べ、スコットランドでは人間が食べる」と彼の編纂した辞書に記述しました。これを知ったスコットランド人が「だからイングランドではいい馬が育ち、スコットランドではいい人間が育つのだ」と反駁した、といったようなエピソードにはこと欠きません。ブラックジョークの応酬ですね。
それから、スコットランドにはストーンヘンジを初めとする巨石文化がありました。もともと「石」に畏敬の念を抱く感性があったのです。「運命の石」というものがあり、旧約聖書に出てくる、ヤコブが枕にした石のことです。これがアイルランド、そしてスコットランドに来た、と言われるそうです。そしてこの石はスコットランド王の玉座になったのですが、イングランドに取り上げられ「運命の石」は酷い扱いを受けたとのこと。「石」一個に国家のプライドが掛けられたのです。スコットランド人は、それほど「石」を畏敬していたのです。また古来、石は投擲用の武器でしたので、その点ドッジボールと似てはいますが、カーリングはその用途にではなく、リンクの上の「陣地取り」という形に発達していったのです。先に領地を占領したほうが勝ちになるわけですね。このスポーツ・カーリングも「戦争」をキーワードとして語れます。
カーリングの特異な点として、
① フェアープレイを前提として重んじるため、審判員はいません。
② 試合途中で自分のチームに勝ち目はないと判断した場合、ギブアップが認められています。スキップ(キャプテン)が相手に握手を求めることです。
カーリングはスコットランドの風土と不可分に発達してきました。教会の構成員の団結を促す側面も持っていて、その際にも「石」への畏敬の念は必ずありました。そして今の形の石になるまでにも、いろいろ紆余曲折があったようです。
一見、優雅な氷上の競技にも、民族の、また民族間の「闘争史」が隠されているのですね。
参考にしたのはWikipedia、「スコットランド 石と水の国」(横川善正:岩波書店)です。
今日のひと言:呼び出し:ちくび与太夫(相撲放送中にそう聞こえました。)