虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

亡国の軍隊

  *亡国の軍隊
 以下は児島 襄(こじま のぼる・戦史研究家)氏の著作「参謀・下」(文春文庫)の記述で興味深かったものです。
 第2次世界大戦中、アメリカ陸軍の参謀 ジョセフ・スチルウェル(Joseph Warren Stilwell:1883−1946)中将は、ビルマ方面から中国軍(国民党軍)を支援するために派遣されました。いくつも肩書きがありましたが特に「中華民国軍参謀長」「貸与物資統轄官」が重要で、蒋介石(しょうかいせき)を補佐し、アメリカの物資を供給することでした。
 驚いたことに、アメリカの援助で道路も建設でき物資も来たのに、蒋介石は腹心の部下を社長にして「通行税」をアメリカから取る会社を作ってしまい、現に通行税を徴収したそうです。あくまで主権国家「中国」に入国するのだから、通行税は当然である、といった感覚だったようです。
 スチルウェル中将が見るに、中国国民党軍は「日本と熾烈な戦いをしている」という意識が薄く、アメリカに留学していた、裕福な家庭の出の子息である中国人将官に行軍を命じたところ、なかなか行軍もしようとせず、時間を浪費しました。この将官の態度は、蒋介石の意図でもあったわけですが、なるほど、まともに戦える軍隊ではないようですね。なんのために将官になったのでしょう?
 中国人が欲するのは「金(かね)、権力、地位」であって、貧乏人の農民の子弟は等しく戦場に駆り出され、金持ちの子弟は兵役を免れる・・・貧富の差がそのまま運命の差になるのは、現代中国の姿そのものだと私は思います。
 まあ、蒋介石の内心は「日本軍と戦うのは、アメリカに任せればいいや。」といったところだったのでしょうか。本当の敵の日本軍なんてどうでも良かったのかも知れません。
 さて、中国共産党との関係で、あらぬ疑いを掛けられたスチルウェル中将は解任されてアメリカにもどりますが、彼は中国でのできごとについて一切口にしなかったとのことです。
 以上のべた国民党軍の体質は、中国の国民性が変わっているとは思えませんので、現在の人民開放軍にも備わっていると推察します。


今日のひと言:児島襄氏の監修で、30年ほど前「太平洋戦争」をテーマにした「決断」という優れたアニメ(アニメンタリーと呼ばれる)が放送されていましたが(日本テレビ系)、中国での戦いは一切登場しませんでしたねえ。