虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

「紙すき」と「環境化学分析」 和紙特集 その2

 私は東京大学工学部都市工学科・衛生工学(現・環境科学コース・・・と言っているらしい)で環境化学分析を学びました。特に「水」の化学分析を手がけたのです。
 水に含まれる各種不純物の濃度(PPM,PPB,PPTなど)を調べるのが仕事で、ある意味「水」自体を調べるものでないのがユニークな点です。
 それら不純物を調べる道具はいろいろありますが、不純物に着色して調べる「滴定(てきてい)」という操作が基本で、トリハロメタンダイオキシンにはガス・クロマトグラフ(GS)、重金属なら原子吸光(げんしきゅうこう)といったような装置も使うことがあります。(現在はもっと高度な装置があるでしょう。)
 これらの実験には、試料(サンプル)についての段階的な前処理が必要です。手続きを踏まないとデータは出ません。
 さて、以上の世界(環境化学分析をも含め)を棄てて、山暮らしをした際、山にコウゾの木があるのに気づき、やろうかな、と思ったのが紙すきでした。そしてこの技術を学ぶにつけ、いかにも環境化学分析に似ているな、と感じ、「やっぱり俺は環境化学分析の住人なんだな」と思いました。

 ちゃんと手続きを踏まないとちゃんとした紙ができないのは、まさしく環境化学分析と同等なのです。


 もちろん、私の「紙漉き屋としての技量は正規の紙漉き屋さんには及びもつきませんが、彼らのスポークスマンにはなり得るだろう、と考えています。現在全国で紙すきを本業にしているのは50軒足らず、といったところでしょうか。

今日のひと言:一度、衛生工学の客員教授に、紙漉きを必修にできないか、と打診したところ、ニベなく断られました。まあ、こんな程度だから、20年間、なにも学問的に進歩してないんだな、と納得したことがあります。