虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

速水御舟の炎舞〜梯子(はしご)の上り下り

ここに挙げる絵は、大正・昭和期を走り抜けた日本画家・速水御舟(はやみ・ぎょしゅう)の代表作・「炎舞:えんぶ」(重要文化財)です。1925(大正14年)。紅蓮の炎に引き付けられ、集る蛾たちの姿を描いた一見具象的な絵です。でも、よく見てみると、蛾たちはすべて翅(はね)を広げています。これは審美的な要求により、写実よりは象徴を重視した絵になっているからです。様式化も高度です。

http://cpcsub21.269g.net/article/16840752.html より。


(この絵、解像度が低いので、別の絵も挙げておきます。)




 速水御舟については、wikipedia から引いてくると

1894年(明治27年)8月2日 - 1935年(昭和10年)3月20日)は大正期〜昭和初期の日本画家である。本名は蒔田 栄一(まきた えいいち)。


1894年(明治27年)8月2日、東京浅草に生まれる。従来の日本画にはなかった徹底した写実、細密描写からやがて代表作「炎舞」のような象徴的・装飾的表現へと進んだ。長くない生涯に多くの名作を残し、「名樹散椿」(めいじゅちりつばき)は昭和期の美術品として最初に重要文化財に指定された。1935年(昭和10年)3月20日腸チフスにより急逝。40歳没。

明治・大正・昭和期の画家は短命な人が多かったですが、速水御舟もその例に漏れません。
彼は同時代の画家の中で、今村紫紅に強く惹かれ、今村を囲む「紅児会」に加入します。

http://d.hatena.ne.jp/iirei/20101117#1289949067

今村紫紅:もう一つの風神雷神図屏風


でも、今村もたった35歳で亡くなってしまい、御舟は独歩の道を歩きます。


彼の初期の作品から一つ挙げると、「小春」。御舟15歳の時の作品。1910年(明治43年)に巽画会(たつみががい)に初出品した作品で、小春日和に思春期前の無邪気さを残す少女の姿を写した佳品。装飾性とともに、写実性も持っています。彼の場合、写実に徹する時期もあったと同時に、象徴に浸る時期もあって、一筋縄では画家の全体像がつかめません。いわば、ピカソに喩えられるでしょう。


御舟の写実が確かなものであることの例証として、静物画「鍋島の皿に柘榴」(1921・大正10年)が挙げられます。柘榴や皿がスベスベしているように見えます。


 御舟本人の言葉で言えば「梯子(はしご)の頂上に登る勇気は貴い、更にそこから降りて来て、再び登り返す勇気を持つ者は更に貴い」・・・画風の固定化・陳腐化をなにより恐れ、常に新たな絵を目指す点、ピカソに似ているのです。


 「炎舞」と同時期に描かれた絵として、以下のも良いと思います。「京の家」(1927年・昭和2年)。3軒の家が限りなく様式化されていて、見ていて心地よいです。「何だろう?」と、手を差し伸べたい感覚。このような手触りは、ヨーロッパで言えば、アンリ・マティスパウル・クレーに見られるような感覚です。

今回ブログは「もっと知りたい 速水御舟 生涯と作品」(尾崎正明・監修:東京美術)を参考にして書きました。「炎舞」以外の作品は、この本から採りました。(炎舞は、綺麗に赤い色がスキャンできなかったので、ネットから探しました。でも、先に書いたように、解像度が低いので、この本からも引いてきました。)


今日のひと言:「御舟は画商から金を積まれても自分にモチベーションが出ない限り、絵を描かなかった。そんな御舟に画商は「蟻一匹でもいいから描いてくれ」と必死に頼み込み、やむなく御舟は大きなキャンバスに小さい蟻の絵を描いた。」(wiki)。・・・御舟らしい逸話です。


関連過去ログ:http://d.hatena.ne.jp/iirei/20080325#1206403270

    (菱田春草の猫〜明治画壇の華)


私の速水御舟―中学生からの日本画鑑賞法

私の速水御舟―中学生からの日本画鑑賞法



今日の料理


雲南百薬(うんなんひゃくやく)のお浸し


草姿

おひたし

この植物は以前取り上げました。栄養価の高い葉っぱです。ツルムラサキ科の野菜。含まれるシュウ酸を抜くため、茹でたあと、20分ほど冷水に晒し、鰹節+醤油で味付けしました。

http://d.hatena.ne.jp/iirei/20121120#1353406088
  :オカヒジキオカジュンサイ〜「岡**」と言われる植物たち


ゴーヤの次にブームになるのは、この植物でしょうね。雲南百薬は、「オカワカメ」とも呼ばれます。

  (2013.07.21)




今日の一首


いくとせも
放り置きたる
レモン草


香り残りし
お茶にして飲む


 レモングラス(歌中ではレモン草と表記)は、イネ科の多年草。東南アジアが原産で、レモンと同じ香りを持つハーブです。株を更新して、古い方は放置して枯らしましたが、それでも香りを残していたのが、心憎いです。利用したのは、茎の太い部分。美味しかったです。

  (2013.07.23)