虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

フォーヴィズムと表現主義


「ドランの肖像」ヴラマンク・・・
暴力的なまでの色彩
「すぐわかる20世紀の美術」より→


 今、手元にある本は「俵屋宗達 琳派の祖の真実」(古田亮平凡社新書)です。この本の中で、著者は1600年代ころの日本の画家・俵屋宗達と20世紀のフランスの画家・アンリ・マティスの絵を比較し、その類似性を指摘しています。年代、場所に関わらず、2つの対象を俎上に乗せるという態度を「比較美術史」と言っています。


 私は、フランスのフォーヴィズム野獣派)とドイツの表現主義の絵画がその色使いにおいて似ていると思い、図書館から「すぐわかる20世紀の美術」(千足伸行東京美術)を借りてきて読んでみると、どうも、先に挙げた「比較美術史」を待つまでもなく、ドイツ表現主義は、直接にフォーヴィズムの影響を受けているようです。(各美術の相関図のようなものがあったのです。)まあ、両者、タイムラグはあまりないようです。


 フォーヴィズムは1905年くらいに、フランスで興った美術運動で、マチスヴラマンクドランなどが有名です。キャンバスに原色の絵の具を叩きつけるような「野獣的な」絵が特長です。色彩については、後期印象派セザンヌゴッホゴーギャンの影響をも受けているし、また点描法の画家・スーラシニャックなどの影響も受けています。


 ヴラマンクは、「フォーヴィズム、それは私だ」と宣言していますが、彼は数年でフォーヴィズムから足を洗っているらしいです。原色を叩きつけるような営為は、精神衛生上、苦しいものなのかも知れません。そこへいくと、マチスは穏やかながらフォーヴィズムを継続していきます。「疲れた体を癒してくれる安楽椅子のような芸術」でした。(まるで「家具としての音楽」を提唱したエリック・サティにも似ていますね。)


「踊り」マチス


http://www.allposters.co.jp/-sp/%E3%83%80%E3%83%B3%E3%82%B9-Posters_i324479_.htm より

 そして、ドイツ表現主義ですが、この美術運動は、のっけから「暗い」色彩に彩られています。ドイツ人ではないノルウェイ人のエドワルド・ムンクドイツ表現主義先駆者の一人なのです。ムンクの「叫び」「病める少女」の「魂の叫び」を素材とした絵画表現は以後のドイツ表現主義者に影響を与えるのです。(このムンクに関する記述は「夜の画家たち:坂崎乙郎平凡社」を参考にしました。)

「叫び」ムンクwikiより)


 表現主義とは「expression:外に押し出す、搾り出す」で、印象派の「impression:中に取り込む」と言った立場とは真逆で相容れない製作態度です。この運動も1905ころからはじまります。なかでも、私の印象に残っているのは、エミール・ノルデです。頑固なこの画家は、フランス・フォーヴィズムという「陽」でインターナショナルな絵画運動と異なり、「陰」でドイツの土着性のある絵を描いていますが、その色使いには素晴らしいものがあり、人によっては愛好することもありそうな絵です。


↓「十字架のキリスト」ノルデ・・・発表当時非難を巻き起こした絵「すぐわかる20世紀の美術」より

および名前のわからない絵
http://q3vn.blog.so-net.ne.jp/2008-10-02より

 ノルデは最初、正にドイツ的なナチス党員になりますが、ヒットラーがそのほかの芸術と同じく、ノルデの絵を「頽廃芸術」であるとレッテル張りし、迫害を受け、絵は発表できなくなります。皮肉ですね。



今日のひと言:たかが絵画、されど絵画ですね。どんな絵を好むか、またどんな絵を産み出すか、地域差があるのですね。


過去ログで画家(ないし彫刻家)を取り上げたもの(抜粋)

宗達の犬:http://d.hatena.ne.jp/iirei/20070912

菱田春草の猫:http://d.hatena.ne.jp/iirei/20080325

ミュシャのゾディアック:http://d.hatena.ne.jp/iirei/20080710

俵屋宗達の視線: http://d.hatena.ne.jp/iirei/20090210

カミーユ・クローデルhttp://d.hatena.ne.jp/iirei/20090406

パウル・クレーhttp://d.hatena.ne.jp/iirei/20090426

今村紫紅http://d.hatena.ne.jp/iirei/20101117

アンソール:http://d.hatena.ne.jp/iirei/20110220 




今日の料理:カツオ(鰹)の刺身は、私以前嫌いでした。その生臭さが。通常「しょうが」と「ミント」または「タラゴン」で臭い消しするのですが、タレは醤油の替わりにウスターソースを使ってみたところ、この個性の強いソースは、カツオ料理にも合うようです。しょうが、ミントと相まって、消臭効果があるようです。うちではこのソース(ないし醤油)+ハーブを切ったカツオに乗せ掛けて食します。

   (2011.10.20)


今日の詩


スクラップ・アンド・ビルド(scrap and build)


建造物を
作っては壊し
壊しては作る
人間は土地を
自由に扱う
でも土は死ぬぞ
  (2011.10.20)

新書518俵屋宗達 (平凡社新書)

新書518俵屋宗達 (平凡社新書)

INRI 受難