虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

「日本人はなぜ日本を愛せないのか」:鈴木孝夫・新潮選書(書評)


 日本人にとって、海のむこうからやってくるものは「いいものだ」という抜きがたい先入観を疑うことから、この本は始まります。



 日本人が自分のものについて、欧米諸国にくらべて劣っていると思われる物事には2つの大きな側面があり


 1)日本語は欠陥言語ではないか、と言う不安、これは明治時代の文部大臣・森有礼が「日本語は英語に換えるべし」といったこととか、第二次世界大戦後、作家の志賀直哉が、フランス語をまったく知らないのに「日本語ではだめだ、美しいフランス語に換えるべきだ」といった無責任な発言が目立ちます。(これは有名な逸話です。この話を聞いたあと、志賀直哉には目もくれなくなりました。バカだから。)


2)日本人がもつ自分の体躯(たいく)についての、紅毛碧眼(こうもうへきがん:赤い体毛と青い目)の欧米人への劣等感。


鈴木孝夫氏は、上のどちらの劣等感も、的外れだと指摘します。日本語は、欧米の技術・思想を過不足なく移入できましたし、また、「美しい黒髪」を金髪に染めるのは愚かである、とします。


でも、欧米崇拝者も多く、パリ帰りの高村光太郎が1911年に発表した次の詩など、その最たるもののようです。



  根付の国

頬骨が出て、唇が厚くて、眼が三角で、名人三五郎の彫った
根付の様な顔をして
魂をぬかれた様にぽかんとして
自分を知らない、こせこせした
命のやすい
見栄坊な
小さく固まって、納まり返った
猿の様な、狐の様な、ももんがあの様な、だぼはぜの様な、
麦魚(めだか)の様な、鬼瓦の様な、茶碗のかけらの様な日本人




自虐的なことにも限度がありますね。


ただ、ハンチントンという学者は、世界の文明を8つの大きなグループに分けたとき、日本は単独でひとつの文明を形作っていると言っています。


この本は、欧米での見聞が豊富な作者・言語学者鈴木孝夫さんがものされたもので、日本人が欧米人からもつ一般的なイメージからすると、トンデモないエピソードに彩られています。


たとえば、愛犬家の人がその愛犬が大怪我したとき、「もはや役にたたない」と銃殺するという事例があるそうです。あくまでも家畜は家畜、役に立たないと即座に処分するのが常識なのですね。


大きな文明の括りとして、「家畜文化(家畜+穀物複合体)」と「魚介文化(魚介+穀物複合体)」があげられていますが、ユーラシア大陸の国はおおむね前者です。


この文化形態は「家畜」を管理するのでなりたっているのですが、それはかなり過酷な犠牲を飼うほうの人間にも飼われるほうの動物にもあたえますし、このような文化形態がものわかりの悪い「一神教」にもつながるとも思えますね。人間が、自らを家畜とみなす超越的な存在を「神」と呼べば、それが唯一絶対の神になるのです。羊飼いは、二人もいらない・・・だから、一神教的世界観は、それを生み出した民族に固有の生活文化から生まれるのでしょう。(それは多神教でも同様ですが)一神教では家畜と人間は、ちょうど人間と神の関係とパラレルなのですね。


さらに、欧米諸国の陋習として「獣姦:じゅうかん・動物とセックスすること」が少なくても50年前まではあったのだそうです。これも、欧米人の「家畜」観で説明がつきます。・・・ギリシャ神話のミノタウロスのような怪物が生まれるかも、という畏れの感情がなかったのでしょうかね。


また、アングロ・サクソンが新大陸に進出した際、そこの先住民であるネイティヴ・アメリカンを見たとき、「これは果たして人間なのだろうか?」と相当悩んだそうです、ただその後の歴史が示すように、ネイティヴ・アメリカンは絶滅に向かう運命を担わされたのですから、どうやらアングロ・サクソンネイティヴ・アメリカンを「家畜」と見なしたようですね。


「家畜」なら、なにをしても良いという論理です。



一方の日本、われわれの国の「もったいない」「お蔭さまで」という言葉に表されるように、八百万の神がいる柔軟な国です。海外から異文化を導入する際も、「良くないところは採用せず、いいところだけを取り入れる」という柔軟な国家です。その良い例が「宦官(かんがん):生殖器を除去された男子がなる役職」とか「纏足(てんそく):あらかじめつま先を小さくするようにされた女子」などの「生体加工」を受け入れなかったことです。これは島国である日本ならではでしたが、誇ってよいことかと思います。


今日のひと言:鈴木孝夫さんは、日本のみんながあこがれる欧米の実相をツブサに見聞きし、欧米型文明=「家畜文化(家畜+穀物複合体)」の裏の側を見せることに成功しているようですね。一方的な賛美ではなく、否定的側面を示すことにより文化の相対化をやったのですね。これから注目されるのは、「魚介文化(魚介+穀物複合体)」的なものだろう、と鈴木氏は予想しています。


この本のキーワードは、このブログで挙げたほかにもいろいろあり、多様なイメージで読書できるようになっている秀作です。



今日の一首


 ザリガニの
 腕を挙げるや
 用水路
 もう先なしと
 知ってか否か



アメリカザリガニ
が水の落ちたコンクリート張りの用水路に取り残され、あとは死ぬのみ、という感じ。
複数いました。


日本人はなぜ日本を愛せないのか (新潮選書)

日本人はなぜ日本を愛せないのか (新潮選書)

日本語教のすすめ (新潮新書)

日本語教のすすめ (新潮新書)

雲南百薬・今年最後の収穫


 今年、「サカタのタネ」から購入した「雲南百薬」、「つるむらさき」の仲間です。

つるむらさき」と同じく、ヌメリのある野菜で、別名「オカワカメ」。確かに茹でて20分ほど晒し(シュウ酸を除くため)、カツオブシ、胡麻油、醤油で和えると(これは、私のレシピ)、ワカメのようなヌメリがあるのでこういわれるようですね。匂いに癖のある「つるむらさき」とは違い、匂いは気になりませんが、味がちょっと苦いです。・・・この2種類の「ツルムラサキ科」の植物については、好みが分かれそうですが、ビタミン、ミネラルが豊富で、元気がでる野菜といえるでしょう。とくに雲南百薬には、マンガン亜鉛、銅、葉酸などが豊富に含まれているそうです。


 でも、ベランダに絡めつかせた雲南百薬、他の植物の邪魔になるほど繁茂したので、ここはバッサリ斬ることにしました。2株あったので、来年は1株だけ育てることにしました。斬る前の花をつけた写真と料理例を飾っておきます。

花↑



今日の戯言(ざれごと): 株式会社フジタの社員4名を拘束した中国共産党(=人民解放軍)は、そのうち3名を解放した。3/4人解放軍。切り捨てれば、0人解放軍。だーーれもこの組織では解放されない。