虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

ここ掘れ!わんわん!――昔話の深層

 *ここ掘れ!わんわん!――昔話の深層


日本昔話百選

日本昔話百選

 飼っていた犬が「ここ掘れ、わんわん!」と言う言葉に従い、善人のおじいさんが、そこを掘ってみると、財宝の山!!・・・というノリで始まる「花咲か爺」には、日本昔話のエッセンスが凝集されています。


 まず、この犬は川を流れてくるところを、お爺さんに拾われます。そして、上に書いたように、財宝のありかをお爺さんに教えます。その後、隣人の悪人のお爺さんもこの犬を試してみますが、財宝は出ません。怒った悪人の爺さんは犬を殺してしまいます。犬の死体を埋めると、木が伸び、優れた臼になります。この臼も善なおじいさんに福をもたらしますが、また、悪のおじいさんに破壊されてしまいます。


 その臼を悪のおじいさんが燃やした際、取れた灰を撒くと、あーら、不思議。津々浦々の花が、季節に関係なく咲くではありませんか。このことを伝え聞いた殿様にも愛でられ、善人のお爺さんはご褒美をもらいます。悪人のお爺さんが真似をしたところ、ただただ煙たいだけで、殿様に罰せられます・・・



 以上のあらましに注釈を付けるのが、民俗学者の仕事です。


 まず、「犬が川の上流から流れてくる」という事実は、この「花咲か爺」が「貴種流離譚:きしゅりゅうりたん」であることを示します。これは「桃太郎」とか「一寸法師」「竹取物語」などの深層テーマになっているのです。

 また、「花咲か爺」の場合には、「動物報恩譚:どうぶつほうおんたん」でもありますし、「動物再生」型のお話です。

 さらに、善・悪の登場人物が登場し、悪が懲らしめられ、善が幸せになるという点も、ほかの昔話と共通しています。因果応報、勧善懲悪の視点があります。その組み合わせは、兄弟、隣人、夫婦の場合がヴァリエーションとしてあります。これは、幼子(おさなご)たちに語り聞かせるために生まれた物語だから、こういった結末になるのですね。



 今回のブログで参考にしたのは、「桃太郎はニートだった!  日本昔話は人生の大ヒント」:石井正己(講談社+α新書):800円(税別)でした。



今日のひと言:昔話は、話のもとが中国などから由来したものもあるし、日本のあちこちで自然発生的に生まれたものもあります。それが江戸時代の「赤本」という読み物によって普及し、明治時代から、巌谷小波(いわやさざなみ)達の手で、現代的な装飾を凝らされ、世にでるのです。


 戦後、木下順二氏が「異類婚姻譚:いるいこんいんたん」である「鶴女房」を舞台化したとき(夕鶴)、民俗学の権威・柳田国男氏が「民話と昔話を混同してはならない」、と批判的だったそうです。もっとも、現代の読者からみると(児童と、読み聞かせする父母)それはどちらでも良いように思われます。また、石井さんは、「結末」の残酷さを薄めるように書く現代の書き手たちは、「結末の弛緩」をやっていると批判的です。因果応報を伝えるのも、昔話の大事な側面だからです。



 構造主義者たちは、文芸批評論の中で、世界の物語りは大体30通りのパターンに分類できるとしたそうですが(文学部唯野教授筒井康隆)、昔話もその論理が適用できるか、興味あるところです。
 物語の深層をたどれば、解るかもしれません。


子どもとよむ日本の昔ばなし 12巻セット

子どもとよむ日本の昔ばなし 12巻セット

[rakuten:book:11811099:detail]